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番外編②の1

「裕太、映画に遅れるよ〜。裕太が行きたいって言ったんでしょ?」 「はいはい。」 あれから、俺たちはお外デートをする回数が増えた。外でいちゃつくとか抵抗があったか、最近はこなれてきた自分がいる。俺か、Ωか、どちらにしろ 適応力が高すぎた…。まぁ、変なセクハラもないし。どっちもどっちなら、外で何かして気がまぎれる方が良かった。 「裕太、何の映画予約したの?」 「…なんかテレビでCMしてたホラーのやつ。」 道すがら、距離をとって行ったら星野にちょいちょいと呼ばれる。いちゃつかないで済むように離れていたが、バレてたか…。俺は星野に腕を絡めた。曇り空の下、湿度も上がってきてるので大きい星野とくっつくと暑苦しい。帰る頃は雨かなぁ。 「自分で選んで、そんな曖昧なの?変なの〜。」 正直、映画とか見るの久々でどれでも良かった。結果、時間帯が丁度良くて、良くCMで目にしたものを俺は選んだ。ホラーも観るの何年ぶりだろうか。 「でも、どうせなら、ははは、あの犬の映画にすれば良かったのに。」 ピクリ もう俺は、犬の話をしたく無いし、見たくもない…。前は散歩している犬を触られせてもらったりしてたのに…。ここは無心でスルーだ。 「わんわん。わんわん。」 「…」 星野がニコニコと、俺に向かってわんわん言ってくる。俺は眉を寄せてスルーだ。しかし星野は相変わらず俺に顔を寄せ、右からわんわん、左からわんわん…しつこい。本当に大型犬に絡まれている気分だ…。 「宗介、映画館近いし、不審がられるぞ。」 「ははは、あれ、すんごい可愛かったのにな〜。陽子ちゃん趣味良いよね。」 悪趣味だろがよ。 ---- 星野と一緒ではあるが、ポップコーンの匂いと、騒ついた雰囲気…久々の映画に若干テンションは上がる。ただ、これがなければ… 「カップルシート空いてて良かったよね〜。」 星野に指定されて強制的に取らされたのはカップルシート。2人分の座席がくっついて、1つの大きなソファになったような席だった。 「そうだな。」 防壁として、星野との間に大きなポップコーンを置いた。暗闇で変態と密着するなんて、命取り過ぎる。 そんなこんなで映画が始まる。 映画が始まって数分、星野を見ると案外真面目に見ていた。これなら大丈夫かな…。俺も映画を見出した。 しかし誤算が1つあった。この映画びっくり系のホラー映画映画だった。 「………うわっっ!」 ガンッ 「わっ」 そして、俺はびっくり系ホラーが苦手だった。もっとじっとりくるやつは大丈夫なんだけど…。 俺がビクリとした瞬間にポップコーンを蹴ってしまい、星野に向かってポップコーンがこぼれた。星野が小さく驚きの声をあげた。 「宗介、悪い…。」 「??ううん。い〜よ〜。」 星野は不思議そうに俺を見て、また視線を映画に移した。俺も映画を観ようとする。 『きゃあぁぁぁぁぁっ!!』 ビクッ 『わぁぁぁぁーー!』 ビクッ 「…」 「…」 け、結構、ガンガンにビビらせてくるな。大丈夫、こんなのは作り物だ。ほら、あの血だって……。まぁ、結構リアルだな。あー、違う違う。血糊の掃除が大変そうだな。スタッフお疲れ様だな。うわっ、え、猫、猫…本物を殺してない?ないよねー。だよね。動物愛護団体が黙ってないもんねー。 つらつらと意味のない事を考えるも、ビクつくのは反射だから止められない。 「……裕太さ、」 「な、なんだ?」 星野が何か言ってるが、若干上の空で答える。何故ならスクリーンでは、殺人鬼が主人公に迫っていて…。 「ホラー苦手?」 「は?いやいや、そんな……うぉっっ!!」 また俺は大きくびくついた。一応ひと段落したので俺はチラリと星野を見て…星野を二度見した。 星野は垂れた眠そうな目をしているが、目自体はデカい。その大きな双眼が、スクリーンからの悲鳴やおどろおどろしいBGMを背景に、こちらを見て爛々と輝き、口はニッコリと笑みを浮かべていた。ギャップが怖い。てか、暗いところで……そんな呪いの人形みたいな顔するな。 「…な、んだよ。」 「ううん!ずっとぐいぐい腕引っ張るなと思って。いや、ずっと俺の腕掴んでていいよ〜。」 「あ。ごめん。服伸びるな…。」 気がつけば、俺は星野の服を引っ張っていた。そのせいで、星野の服は少し伸びてしまっている。 「いいのいいの!手、握っとく?」 「はぁ?ばっ…わっっ!」 またビクつき、星野をこちらに引き寄せてしまった。 「ははっ。」 星野が調子にのり、その勢いで俺の肩に手を回した。 「む、……っ!!」 当然そんなの拒否だ。拒否しようとしていたら、また映画がビビらせてくる。結果、俺はさらに星野の腕にしがみついた。もはやコアラみたいに、自分で星野の腕を抱え込みしがみつく。くつくつと星野が笑い。カァッと恥ずかしさが込み上げるが、またスクリーンからおどろおどろしい音楽が流れる。 映画も終盤となると、俺は半ば星野に乗り上げ、我に帰りその手を離し離れて、掴み、離し、掴み……もう、何やってんだ俺。不甲斐ない…。 「裕太、楽しかったね〜。」 エンドロールの最中、星野が満足気な声を漏らしていた。 「そだな。」 終わると直ぐに、俺はささっと星野から距離を取る。 「…終わると急に強気だね……でも、また観に来ようね!」 「そうだな。けどホラーはもういいかなぁ…。」 久しぶり過ぎて忘れてたけど、俺結構びびりだし。毎回こんなではやってられない。今夜寝れるかな…。 「じゃぁ、今度は犬の映画観よう。犬と言えば、夕飯は地中海料理行く?パエリアとか良くない?」 犬と言えばじゃねーよ。 陽子ちゃんと行った店を、犬で連想して提案するな。 「…いや、いいや…。俺、もう、陽子ちゃんと行った店は行きたくない」 「!!そうだね!もう、陽子ちゃんの事考えたくないよね!」 語弊がある言い方だが…もういい。考えたくないのは、陽子ちゃんにやられたあの行為なんだけどな。 エンドロールも終わったので、俺達は映画館を出た。 ---- 夕飯を終え店を出ると、あたりは既に真っ暗だった。しかも雨も降り出している。そのせいか、輪をかけて当たりは薄暗い。雰囲気もじっとりと、まるでホラー映画の中のようだ。 「美味しかったね〜。」 「そうだな。」 「……」 「………」 さささっ 俺は自分の傘を開かず、星野にささっと近づき腕を絡めた。俺からこんな風に密着するのは珍しいので何か言われると思ったが、星野は特に何も言わず自分の傘に俺を入れた。 「……あの角とか、いそうだよね。」 「へ?何が?」 すると暫く歩いたところで、星野が不意に話しかけてきた。 「殺人鬼」 「……」 星野がにっこりとして言い放った言葉に俺は口をぽかんと開けた。た、確かに……いそう。ずぶ濡れで、凄く潜んでそう。いやいや、あんなの映画の中だけの話だ。自分に言い聞かせるが、意識しないようにすればする程、意識してしまう。 「じゃ、裕太、俺の家こっちだから。」 「えっ……」 あ、今日は星野、俺を家に誘わないのか…。……。やったー。 「……」 と、思うべきなんだ。べきなんだけど…。 「裕太??手…」 「あ。」 星野に暗に手を離せと言われる。そうだ。俺はまだ、がっちりと星野にしがみつくようにくっついたままだった。 「………」 「……」 「宗介……今夜………て、……さい。」 「え?何?」 俺が勇気を振り絞って、恥を凌いで、…まぁお願いする立場なんだけど、言ってるが星野は聞き返してくる。 「…………………宗介、今夜、泊まらせて下さい。」 「……………ふふっ。」 真っ暗で見えないだろうが、顔が赤くなっているはずだ。俺の言葉に星野が小さく笑う声が聞こえたが、恥ずかしくて顔を上げれない。そのまま、ぴったりと本物の恋人みたいにくっついて俺達は星野の家に帰った。 ※ちょっと続きます。

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