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第4話
◇
席替えをしてから一週間。それと同時に、車両をかえ肩を貸さなくなってからも一週間だ。
榛名は何も変わらず、俺のことなど見えていないよう。交わした言葉の中に特別なものなど何一つなく、授業でグループワークをした際に、「内田は? どう思う?」と言われただけだった。
名前をやっと覚えてくれたんだ、と少しだけドキリとした自分を呪いたくなった。
榛名は今、誰の肩で寝ているのかな? 可愛い女子? それで肩を貸しているその女子は、ラッキーとでも思っているのだろうか?
「何がラッキーだ」
俺はそう思ったことなど一度もなかった。けれど、気持ち良さそうに寝ている榛名を見たら、肩を揺らして起こしてやろうとか、どうしてかそんな気にはならなかった。
だから榛名は、降車駅まで邪魔されずに寝ていられたんだ。
それなのに、俺の顔を見ても何も言わなかった。名前すら覚えていなかった。
そうして今、車両をかえて会わなくなったのに、席は隣で話せる機会なんていくらでもあるのに、「最近電車で見かけないね」のその一言さえもない。
ああ、このイケメンにとって、俺は背景の一部だったんだな。
肩を貸しているときも、貸さなくなった今も、俺は榛名のことばかり考えているというのに。榛名は背景である俺を気にかけることはない。
“本当に嫌だと思ってる?”
武田の言葉が、ふと頭に流れた。
「嫌、ね」
俺は本当に、嫌だと思っていたんだろうか?
3ヶ月も、車両をかえなかったのは、なぜ?
たまたま座席の端が空いていてそこに座っていたけれど、榛名が次に乗ってくると分かっているのだから移動すれば良かったんだ。
来ると分かっていて、自らその席を選んでいた。
「……っ」
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