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第6話

◇ 1ヶ月を過ぎたところで、俺は数えることをやめた。肩を貸さなくなってから何日経ったか。そう数えていることがバカらしくなった。貸してすらいないのだ。貸して、なんて言われていないのだから。 「さむ……」 完全に冬になり、朝は特に冷える。俺は氷のように冷たい指先をさすりながら改札を通った。 「あ、」 そういえば今日は、クリスマスイブじゃあないか。と言っても、毎年何かあるわけではないが、それでもクリスマスは特別なものに思える。 日々キラキラと飾られていくイルミネーションに目がいくほどの余裕がなかったなぁ。すっかり忘れていたや。 まぁ、家と学校の往復だけじゃあ、気づくものも気づけないか。 “まもなく電車が”のアナウンスが入り、音が少しずつ大きくなってきた。俺は落ちかけていた鞄をかけ直し、ぴったりと止まった電車に乗り込んだ。 端の席に座り、ふと顔を上げると、久しぶりに見るサラリーマンがいた。 長らく見ていなかったような気がする。この人、今までどこにいたんだろう。 まぁいいかと思い、イヤホンを耳につける。今日はまず何から聞こうかとリストから選び、1曲選んで再生を押した。 聞きながらぼーっと周囲を見ていると、もう一人久しぶりに見るサラリーマンがいた。いつも疲れた表情をしていてこちらが心配になることもあった人だ。 相変わらずだ。今日はクリスマスイブなのに。 音量を調整しようとボタンを押したところで、電車が止まり扉が開いた。何となく顔を上げると、乗ろうとしている人の中に、榛名が見えた。 「……あ、」 どうして久しぶりに見かけるサラリーマンがいるのか分かった。俺が榛名と同じ車両に乗ってしまったんだ。 クリスマスのことを考えていて、頭から抜けていた。何も思わずにここに乗ってしまった。 どうしよう。席を移動すべきだろうか。 けれど、そう考えた時にはもう、乗ってきた榛名としっかり目線が合ってしまった。 「はる……な……」 小さくこぼれた俺の声は、閉まる扉の音でかき消された。

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