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第4話
「子供は親を選べない」と言うコトも知っていたし、お母様は昔の小説なんかに出て来る「ご令嬢」から進歩していないのも知っていた。
僕はせめてお父様に気に入って貰って名ばかりではあるけれど、籍を置いている大学にちゃんと通って、その後は「カタギ」の世界に普通に就職して平凡に暮らしたいという希望をずっと持っていた。
だから、こういう組関係のことは物凄くどうでも良いし、栞お姉さんのお母さんに籠絡された若頭一派が、このショーを使って僕のことをこの世界から永久追放してくれてもそんなに痛手ではなかった。
ただ、お尻の穴にあんなモノを挿れるというのがどのくらい痛いのかとかが恐怖だった。
ユリさんは本当に気持ち良さそうに二人の男との「行為」を続けている。
僕の方に視線が時々流れてきたけれど「こうするのがコツよ」みたいな先生というか、その道のベテランが初心者に対して「上から目線」で教えているって感じだった。
「女王様も無事お着きになりましたし、これからショーを始めたいって支配人が言っていました。ユキさん……という名前でイイんすよね?」
伝令役と思しき若いスタッフ――この店の従業員なのは知っていた。
一回死ぬほど痛いのを我慢すれば良いだけの話だと腹を括った。怖いけど、一度「オンナ」になったら嫌で仕方ない世界からは逃げることが出来る。そのための通過儀礼だと思って我慢しなければ!!と決意を固めた。
そして女王様と言われているのは栞お姉様だろう。
お母様は周章狼狽していたけれども、栞お姉様に連絡を取ったのだろう、必死に考えて。僕も人のことを言えないとは思うけど、狭い世界に住んでいるお母様なのでその位の解決策しか思い浮かばないだろう。
それに、僕でも「あれ?これはこうすれば良いんじゃないかな?」と思うことでも全く思いつかない人なのは知っていたし。だから栞お姉様に連絡を取ってくれたことはお母様にしてはGJだ。
そして、舞台に上がると、栞お姉様のボックス席に「あの人」が居た!!
栞お姉様が画像を見せてくれたことが有って、そのくっきりとした顔立ちの良さとか高貴な感じが全身に漂っている人は、僕の密かな憧れでもあった。
「この人は私の王子様なの」
栞お姉様の恋人さんなのかと思っていたの「王子様」という言い方に何となく違和感を抱いた覚えが有る。
「恋人ではなくて……?だって栞お姉様と凄くお似合いなのに……」
栞お姉様は複雑そうな笑みを綺麗な顔に浮かべている。
お姉様は金の粉を撒いたような華やかな雰囲気を持っている美人さんだし、実際映画女優として活躍中だ。
テレビCMなんかで良くあるけど、化粧品とか美容サプリとかで全然知らない人が「女優の○○さんもご愛用」とかって、わざわざ紹介されている。そう紹介しないと僕を含めた大多数の人は知らないから分からないという作り手の配慮なのだろけど、お姉様の場合はそんなテロップが必要ない。だってテレビや映画に全く興味がない人でもワイドショーなんかで良く流れているので。
そして、画像の「その人」はクッキリとした眉がとても印象的なモノ凄くカッコ良い人だったし、その男らしい端整さだけでなくて、何て言うか優しいというか人を拒まない笑みを優雅に浮かべていたのが印象的だった。
「恋人ではないわね……。何故ならこの人は異性を愛する人ではないから。
歌舞伎町のホストをしていて、普通は疑似恋愛で女性客を惹き付けておくのがセオリーなのに『同性しかそういう対象になりません』と言い切ってもナンバー1を張っている人なの。
もちろん私もちょくちょくお店に行って会話をしたり、一緒に出掛けたりはしているけれど『下心』がないのは本当に良く分かって……安心して、指名も出来るし出掛けることも出来るわよ」
「王子様」に「下心がないの」が分かって安心という言葉の意味がちょっと分からなかったけれど、何だか聞いてはいけないような雰囲気を纏っていた。
お姉様は本当に綺麗な人だし、男性からも物凄くモテるのは分かるけれど「熱愛スクープ」とかをされたこともない。
ただ、その点も何だか聞いたらダメな雰囲気を纏っていたのも事実だった。
それにユリさんとかと知り合いになっていたことも有って、同性にそういう気持ちを持つ人がたくさん居るのも事実として受け止めていた。
僕は女性にも男性にもそれほど興味が持てないのだけれども、画像の向こうの「王子様」に心が熱くなってしまっていた。
そんなことを想っていたのは乳首を弄られたり、そして、お尻の穴に当てられている硬いモノの怖さからの現実逃避をしようとしていたからかも知れない。
だって、経験豊富な上にあんなに良さそうだったユリさんと違って、僕は怖さしか感じなかった。
ユリさんのさっきの行為の時、本当に気持ち良さそうだった。僕もああいうふうにしろっていう、ユリさんなりのエールだとは思うんだけれど、実際に熱くて硬いモノをお尻の穴にねじ込まれようとするのは恐怖でしかなかった。
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