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第18話

 会場の熱気とか、色々な所で繰り広げられている恥ずかしい行為に司会者の視線も逸れていた。  栞お姉様はそのことも分かっていたのだろう。僕に「舞台用の衣装だけではなくて、脱出用の服も調達しなさい」と言ってくれた。  僕もこのショーが終われば、リョウさんはお城に残る王子様みたいに僕とは居てくれないだろうなって、寂しく思ってしまった。  しかし、シンデレラのパーティだって永遠じゃないし、王子様のダンスじゃなくて僕の初めての行為をしっかりと心と身体に覚えさせておこうと思った。  ユリさんが「気持ちイイわよ」と言っていたのも物凄く分かったし。  ただ、サイズの合わない服とシャツが気になる上に、まだ何かが挿っているみたいなお尻の穴、そして歩く度にそこから零れて素肌を濡らしていくリョウさんの精液にゾクゾクと身体が震える。  しかも、シャツの布地が擦れる度にツキーンとした甘い疼きを脳に送り込んでくる乳首とか。  ただ、従業員専用の出入り口から出た時には、葉巻とかタバコ、そして会場のあちらこちらで繰り広げられていた香水の混じった汗とか男性が放ったモノの匂いやアルコールとかのごちゃまぜになった空気じゃなくって、新鮮な空気が吸えたことで生き返ったような気がした。  しかも、隣を歩んでくれるのは他でもなくリョウさんだったし。  お城のパーティから抜け出して庭園をそぞろ歩きする機会に恵まれたシンデレラみたいだなって思った。  軽井沢とか神戸の六甲山の中腹に有る別荘の――特に後者はお母様の実家の組の近くなので良く行った――周りの山の清浄な空気に比べるまでもないけれど、リョウさんと同じ空気を吸っていると思うとウキウキした気分になってしまう。  身体のあちこちにリョウさんの思い出が残る身体も、何だか僕だけのモノでないような不思議な気分がした。 「栞さんとはどういう関係なんだ?」  不意にリョウさんが聞いて来た。  まあ、見ず知らずの他人じゃないってことくらいは誰にだって分かるのだろうけど。  お店の人は周知のコトらしかったけれど、お姉様の「憧れの人」でもあるリョウさんに本当のことを話して良いのかなって思った。  僕の口から言うよりもお姉様は自分で言いたいし、知って貰いたいような気もしたし。 「それは栞お姉さまから聞いて欲しい。  ただ、僕から言えるのは、幼い頃から本当に可愛がって貰ったこととか、リョウさんのことを気に入っていることくらいかな?」  この程度のことは言っても良いだろうなって思った。  「王子様」を独占している――栞お姉様だってリョウさんをあのお店に連れて来て貰った時はそうだったのだろうけど。  リョウさんのくっきりした眉とか引き締まった唇とか――多分物凄く手入れをしているんだろうけど――サラサラの髪の毛とかがカッコいい。  そんなリョウさんと二人で歩いていると、すれ違う女性が見惚れているのが分かる。  僕だって隣を歩きながら、身体の中にリョウさんの熱くておっきいモノがまだ挿っているような幸せな気分になれた。  お尻の穴もパクリと開いたままで、トロっと出てくるリョウさんのモノが素肌を転がり落ちる感覚もマザマザと夢なんかじゃない、嬉しい出来事が起こったんだって思えたし。 「身体は大丈夫か?ショーの時が正真正銘初めてだったのだろ?  ふらつくようならオレの肩でも腰でも掴めばいい」  王子様が労わるような感じで言ってくれた。  そんな恐れ多いことは出来なくて、でもやっぱりどこか繋がっていたいような気もした。  今夜は「パーティ」の日なんだから。  そっと手を繋いでみた。リョウさんの広い肩とか引き締まった腰に手を回す許可を貰っていたんだから、この程度は良いだろうなって思えて。 「ユウジさんとの時は恐怖しかなかったけど、リョウさんが優しくしてくれたし大丈夫だよ」  キッパリとした感じを漂わせる男らしい眉が顰められているのは、僕と一緒に歩くのが嫌ってわけじゃなくて、初めてだった身体を心配してくれているのは何となく分かった。  だから、感謝の気持ちのままにそう言った。  それに、何だかリョウさんに心配して貰えるなんて本当に嬉しくて、ついつい笑みが浮かんでしまった。  すると、リョウさんは何故だか分からないけど、眉間を不機嫌そうに寄せていた。  もしかして、僕が言ったり手を繋いだりしたのが気に障ったのかな?って心臓がドキンと跳ねた。 「リョウで良い」  えっ!!って内心で嬉しさが弾けるような気がした。  だって、リョウさんは栞お姉様に言われて舞台に上がってくれただけの人だ。  呼び捨てにする関係って――いや、実家とかで見習いなんかの若い衆が先輩格の人に呼び捨てにされているのは知っている――かなり親しいってコトのような気がした。  確かに肉体関係は有る。有るけれど、テレビドラマなんかで観る恋人同士とかでは当然なくて、単なるショーに付き合ってくれただけなのに。  リョウさんって物凄く優しい人なんだなと思うと、初めての相手がこの人で本当に良かったって思えた。 「初体験は優しい方が良いだろう?  次の本番は多少手荒なことをしないといけないみたいだが、服を破られる時とか、挿れられる時には本気で抵抗した方が良いな。  相手構わず、お愉しみ中の客はともかく、純粋にショーを観たいと思っている客も居るので。  ただし、乱暴に抱いているように見せかけて実際はユキの綺麗なお尻やその穴には負担が掛からないようにするから」  何だか業務連絡みたいな感じで言われた。まあ、リョウさんにとっては事務的な感じがするのは当然だろうけど、何だかその口調にも暖かいモノが滲み出ているような気がした、多分気のせいだろうけど。  それにお尻が綺麗って褒められたのも嬉しい。リョウさんの計算され尽くした髪型と――なのだろう、多分――違って僕のは生まれつきだったけど、それでもリョウさんが褒めてくれるだけでとっても。  何だか唇が笑みを深くしていってしまった。  何だか本当に「デート」みたいな気がして物凄く幸せだった。  お店に洋服を買いに行くという行為も初めてだ、そう言えば。  今日は色々な「初めて」が――しかもとっても新鮮で、そして幸せそのものの――舞い降りて来る日なんだなと思うと胸が弾むような気がした。

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