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第19話
お母様が物凄く大好きな映画「ローマの休日」――僕もお屋敷ではお母様と過ごす時間が多いので付き合って一緒に観たことが何回もある。
お母様はヒロインのオードリー・ヘプバーンが大好きってことも有るんだけれど、彼女が演じるアン王女が執事とかメイド長などにいつも監視されて――執事さんじゃなかったかもだけど――不自由な身の上ってことに物凄く感情移入しているようだった。お母様もお外に出るのが好きじゃない上に――実家も、そして結婚相手でもあるお父様も特殊な稼業なだけに「外に出ると物騒なので止めておけ」という教えをキチンと学んで実践している。
ちなみに僕も「鉄砲玉」と呼ばれるヒットマンに狙われたらマズいとかで学校もロクに通えていない。僕自身は勉強も好きだし通いたかったんだけれど。
お母様の――ちなみに栞お姉さまのお母さまはガードしてくれる若い衆とかにしっかりとボディガードをさせて百貨店だの宝石店とかの買い物にも積極的に行っていた感じだった――生活とも似ている部分が多くてあの映画にハマったんだろうけれど、今の僕は窮屈な宮殿だかお城だかを抜け出してローマの街を楽しんでいるアン王女よりも幸せな気分だった。
アン王女とたまたま出会った新聞記者は――最終的に淡い恋に墜ちるみたいだけれど――ローマの観光地を回っている時点では明確な恋心は抱いていないような感じだった。
でも僕の場合は――いや、リョウさんが栞お姉さまのお供でたまたま来て、そしてショーの相手役を務めてくれたのだってお姉さまの意向を汲んでだとゆうことは分かっているケド――王子様と一緒の「デート」なんだから。
まあ、ローマの街のようにロマンティックじゃないけど、そんなの贅沢を言ったらキリがない。
それに何より「憧れの王子様」と一緒に街を歩ける幸せを噛みしめたいと思う。
アン王女様だって、滞在先のお城とか国に帰ったら「結婚しなければいけない」現実が待ち構えていた。
僕の場合も、服を買いに行った後にはあの店のショーに戻らないといけないという「現実」が待っているのも同じなんだけど。
酔った感じの人々がリョウさんの顔を見て「ほお!」っていう表情を浮かべたり、誘う気満々といった媚びた笑みを浮かべたりして見ているのも、一緒に歩いていると何だか誇らしかった。
栞お姉様のスマホの画像で見た時からカッコ良いなって思ってたけど、僕だけじゃなくて道を行く人が皆そう思っているような感じだった。
ついでのように僕にも視線が集まるのは、ユリさんがいつか言っていたように「このエリアは殆んどね。同性しか好きじゃない人が集まってる」からで、しかも僕のお尻の穴にまだリョウさんの熱くておっきいのが挟まっている感じで歩き方がヘンだったり、シャツの布地を押し上げては擦れてジンジンと疼く乳首とか、下着を省略しちゃった――流石に他の人の使った下着は使いたくない――せいでお尻のパクリと開いた穴からリョウさんの白いモノが素肌をつるつると滑っていたりする感触を「物凄くイイ」って感じているからなんだろうな。
お父様のお店――別の人が社長だの代表を務めているのでウチの――ああ、そっか、もうお屋敷にはいられないし、元々組を継ぐ気はあまりなかった。「出入り」だの「カチコミ」とかで銃とかを持って屋敷とか外出先まで狙われる生活なんて僕は嫌だった。
それよりも、静かで平穏な暮らしがしたかったし、籍だけ置いてある大学にもボディガードとかそういう人抜きで「普通」に通いたかったし。
あ、そっか次のショーはさっきよりももっと大きなお金が動いているようだし、店の取り分を引いたお金が僕のものになるとか栞お姉さまは言っていた。
そのお金で生活出来るかどうかはサッパリ分からなかったけれど――お買い物すらしたことがない僕はモノの値段なんて知らないし、一人暮らしをしたら家賃とかを毎月支払わないといけないことくらいはドラマや本で知っている。ただ、その家賃がどの程度のお金が掛かるのかは知らなかったし。
あっといけない……王子様との「デート」で何だか気もそぞろになっていたけれど、リョウさんと栞お姉さまは普段どんな「デート」をしているんだろう?
「恋人じゃない」とは聞いていたけど、妙に気になってしまった。
これって焼きもちなのかな?
でもリョウさんは僕の恋人でもないんだけど。ただ、片想いでも嫉妬とかはするって本に書いてあった。
リョウさんの言葉で途切れた二人の会話を今度は僕が返さないといけないんだった。
「有難う。そうして貰えればとても嬉しい。
でも――リョウとなら手荒く抱いてくれてもイイよ。
栞お姉さまとはお店の客とスタッフとして知り合って……。
アフターと言うのかな?と、店外デートでああいうプレイを鑑賞に行く仲だと聞いているんだけど?」
リョウさんじゃなくて、「リョウ」って呼び捨てにしても良いって言われていたけど、実際に口に出したらホントに恋人同士みたいで胸がキュンってなった。
でも、そんな僕の想いは封印しておかなくちゃと思って、栞お姉さまとの「デート」のことを口にした。
リョウさんは僕の王子様ではあったけど、僕一人の存在でもない。それに栞お姉さまにとっても王子様なんだから。
それに、お姉さまから「店外デート」で鑑賞に行くショーの中身も気になった。
どんなプレイ(?)が好きなのかなとか。
「ああ、彼女は――オレがお客さんと『そういう関係』にならずにトーク力と――自分で言うのもなんだが――イケメン揃いのウチの店でも最高にカッコ良い!!という評判。
そして、アルコールが物凄く強い上に酔えばますます話しが面白くなるそうだ。だから気に入って貰っているのだろうな……。それにオレが欲張っていないところも気に入ったとか聞いた覚えは有る……」
「彼女」という言葉に――リョウさんは単なる人称代名詞として使っているっぽいけど――胸がツキンと痛んだ。
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