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第20話

 ただ、それは僕の勝手な思いだし、栞お姉様がリョウさんの大事な大事なお客様だ。  トーク力かぁ、確かにリョウさんは顔だけでなくって低めの声で聴いていると耳にシルクを当てられたような気がする。それにテンポも早すぎず遅すぎずといった感じでずっと聞いていたくなる。  そういう王子様のようなリョウさんの隣で歩けるだけで充分満足だった。  だから思わず笑みを浮かべてしまった。リョウさんの声って何だか聴いている僕の心の中にも花を咲かせてくれるような気がして。 「オレがナンバー1で居られるのも詩織莉さんが事もなげにお金を遣ってくれる側面は実際でかい」  ユリさんは「オトコはカ・ラ・ダで落とすのよ」とか言っていたけれどリョウさんはそういうのは一切していないみたいだし、トーク力だけでナンバー1ホストになれるってすごいなって思ってしまった。  栞お姉さまとも「そういう」関係じゃないってのも分かったし。これは僕の直感なんだけれど多分合っていると思う。  ウチのお父様も色々なお店を経営しているけど――店だけじゃなくって、ラブ○テル、いや今はファッションホテルっていうっぽい――ホストクラブは流石にない。だから、そういう業界には興味が有ったし、何よりリョウさんのお仕事のことでも何でも良いので聞いてみたかったのも事実だった。  お父様のお供でしかお屋敷の外に出る機会がないので、僕の世界は物凄く狭いのも事実だったし、知らないといけないことはいっぱい有る。  それにホストクラブを描いた――まあ、仁侠モノとか言われている映画も観る機会が有ったけど「あんなのウソだ」って思ってしまったので、そういうフィクションが混じっているんだろうけど――ドラマもあったし興味は有った。  それにリョウさんは自分のお仕事に自信とプライドを持っているのだろう。  何だか話し方に熱がこもっているような感じだったし。僕と「そういう」行為をしている時とは違って明朗闊達という感じ。  そういうのをずっと聞いてみたいな……なんてワガママ過ぎる願いを持ってしまっていた。 「リョウ――さんのトーク力……具体的にどんなの?誕生日には何でも欲しいものが貰えるって何かで読んだんだけど……」  ドラマの中ではバレンタインの日に「ブランド物のチョコレートを渡すから一緒に来て」とか言われて、駐車場に行ったらフェラーリだかランボルギーニの助手席にチョコが置いてあって車ごと貰えたとかいうシーンが有ったような覚えが有る。  誕生日も――ちなみにユリさんのお店でも誕生日イベントはしていて、お客さんが胡蝶蘭の花を贈ってくれるのが自慢らしい――ナンバー1ホストだったら凄いんだろうなって思う。 「まあ、『誕生日プレゼントは何が欲しい?』とたくさんの客に聞かれる。  同僚だとブランド物のスーツとか、1千万超えの時計とかをその客が払える範囲でリクエストしているが、オレは『何でも良い。そういうのは気持ちだけで嬉しいから。たださ、北千住の土地は欲しいなとは思っている』とか言っている」  え?北千住?と思った。リョウさんの雰囲気ってやっぱり赤坂とか六本木とかそういうお洒落な街が似合うのに、ミスマッチ過ぎる。いや、別に北千住をディスる積もりはないんだけど……何だか可笑しくなってついつい笑い声を上げてしまった。  ショーが始まってから何だか自分が自分でないような気がしていたし、その前に家から強引に連れ出された時には血の気が引いた。そういう思いっきり揺れ動いた気持ちと、北千住という土地が「日常」を取り戻させてくれそうで。 「北千住って……。何か高齢者の街というか……。何かナンバー1ホストが欲しがる土地のような感じがしないな。六本木とか赤坂なら皆がリクエストしそうだけれど。土地単価も物凄い上に、そんな場所のタワーマンションとかに住んでいると大きなエントランスロビーに付いているカフェめいたところで営業活動が出来るから一石二鳥だと思うんだけれど」  そういう、ビジネスの基本みたいなことはお父様とかに習っていた。それに今のお洒落な人がタワーマンションを欲しがっているとかはテレビで見た覚えがあった。  ウチみたいに応接室に通さなくても、エントランスの喫茶室でお客様をもてなすことも――まあ僕が家事をしないからあまり関係ないかもだけれど――「都会の暮らし」って感じでリョウさんには似合っている。 「そこが付け目というか。何でも北千住の地価が騰がっているという記事は愛読している日経で知った。  そして北千住から連想されるのはユキの考え通りで、笑いを取ることが出来る上に地価の話にも持っていける。  詩織莉さんは別だが、オレの客には女性経営者もたくさん居るので、日経の社長就任とかのお知らせ欄なんて必読だし」  リョウさんも日本経済新聞を読んでいるんだ!って思うと何だか親近感がわいてきた。  僕もせめて新聞で世間を知ろうと毎日欠かさず読んでいる。  笑いながらウンウンって頷くとリョウさんは真っ白い歯を見せて笑ってくれた。  さっきまで「あんな」行為をしていたとは思えないほど爽やかで清潔感の有る笑みも最高にカッコ良い。 「そういうトーク力のせいで詩織莉さんにも気に入られている。  だからだと思うが、二丁目のああいう店とかでのショーは何回も行ったことがある。  しかし、彼女の好み――もちろん観る側の立場だが――オレとユキがさっきまでしていたショーよりもユリさんだっけ?ああいう過激な方が好みだし、オレ達の二回目のショーのように無理やりとかいうシュチュエーションが好きみたいだ」  え?と思った。栞お姉さまが「無理やり」が好き?何だか僕にはそうは思えなかった。  むしろ「無理やり」は何だか嫌いっぽい感じがしていたのは僕の気のせいなんだろうか。  芸能界に入ってからは会うこともなくなったけれど、実家に居る時のお姉様は――時々僕のお母さまのエリアに来て一緒にテレビを観たりお喋りしたりしていた――画面に「無理やり」の行為が映っているのを何だか避けているような気がしていた。まあ、お母さまと一緒にテレビを観ていた時が殆んどなのでお母様に遠慮したのかも知れなかったけど。  僕だって一応男だし、お母さまと居る時に「そういう行為」をテレビで一緒に観るのは正直居た堪れないような気がしていたし。  でも、何だか意外過ぎるリョウさんの言葉に目を瞠ってしまったんだけど。

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