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第23話

 リョウさんの男らしくて艶のある声が告げた言葉を何度か頭の中で再生しようと試みた。こういうことは英語とかのレッスンで慣れていることもあってやっとリョウさんの言葉が意味を持って脳裏に甦ってきた。 「そんな大金を見せたら危ない」とか言ってくれたようだったんだけれど、周りには誰もいないし大丈夫だろう。ってゆうか、このお金は「大金」らしい。幾ら有るのかは僕にも分からなかったんだけれど。  トーク力をつけるようになれば、少しでもリョウさんに近づけるのかなって思うと、とにかく何でも良いから話さなければいけないような気がした。 「ああ、このお金?これは栞お姉さまに貸してもらった。  呉れると言ってたんだけど、いずれ僕が自分の力で返せる日が来れば絶対に返す積もりだし……ただ……」  このお金が「大金」で、そして僕には――そういえば小さい頃から貯めているお年玉の貯金箱代わりの金庫とか言ってお父様がくれたものに一万円札がたくさん有った。  お母さまやお父様の他に年始の義理事とかいうらしいけど、そういう人たちがこのお札を10枚単位で呉れ続けていたこともあってかなりの金額になっているハズだけれど、あの家には帰れない。  栞お姉さまがリョウさんを相手役として連れてきてくれたのは正直ラッキーだった。  そうじゃなければ、僕のお尻の中も裂けていたに違いないし、そうなったら場所が場所なだけにお医者さんにも恥ずかしくて行けないハメになっていただろうから。  痔というお尻の病気が有って、そういう人は肛門科に行くというのは動画で知っていた。  ただ、お尻が裂けるようなことって、僕の知る限りではユリさんが大好きな行為――僕も相手がリョウさんなら大好きさに変わりはないけど――くらいしかない。  お医者さんにそんな恥ずかしい――病気で仕方なくとかなら別に良いけれど、お医者さんなら何でお尻の穴を使ったかくらいは分かるだろう――所を見せたくない。  ユリさんとかは普通にソコを使っているってゆっていたけど、僕が知る限り――といってもインターネットの中だけでしか知らないのも事実だ――多数の人は異性と「そういう行為」をするっていうことくらいは知っている。  18歳以上しか閲覧出来ないと書いてある動画配信サイトでも綺麗な女の人と男性との行為のほうが圧倒的に多かったし。  同性同士の動画も有るにはあったけど数は少なかったような気がする。  リョウさんはカラッとした感じで「同性が好き」とか栞お姉さまに言ったみたいだけど、それってホストとしてはハンディキャップを背負っているんじゃないかなって思った。  ユーチュ〇ブなんかの動画で見たけど女性がホストクラブに行くのは疑似恋愛以上のモノを求めてるとか言っている女の人も居たし。「ガチ恋」とかゆう「彼女になりたい」とか「身体だけの関係でも良い」とかってゆう女の人も多いとか。  まあ、リョウさんは見た目も物凄くカッコ良いし、話も面白いのでお酒を呑んで話しているだけで充分なんだろうけど。  それはともかく、リョウさんが大金だって言うお金を――貯金箱という名前の金庫は実家の僕の部屋に置いたっきりで、今は栞お姉さまのお母様が権力を握っている家には帰れない。  そして、アルバイトをすればお金って稼げるみたいだけど、フリーターと呼ばれる人がコンビニバイトで稼いでも生活出来ないとかってユーチュー〇で言っていた。  だったらリョウさんの言う「大金」を獲得する方法なんて僕には思いつかない。  リョウさんみたいに物凄く整った顔とか男らしくバランスの取れた身体も持ち合わせていないし。トーク力はこれから頑張る積りなんだけど、な。  ただ、ウチの「若い衆」と呼ばれる人もアルマーニは流行っていてよく見かける。けれども、こんなに似合う人って初めて見た。  だからホストなんて凄い仕事は出来ないだろうし、かといってユリさんみたく「ああいうお店」で身体を張って働くってのも何だか違くないかな?って思う。  リョウさんと「した」時は物凄く気持ち良かったし、クセになりそうだったけど、それは相手がリョウさんだからだ。  ユリさんみたいに「アレさえ付いていれば良いの!しかもビンビンに立ったのが」とかゆう心境にもなれない。  だから当面は栞お姉さまに返すアテなんてない。  僕ってやっぱりユリさんがいつか言ったように「温室育ち」なんだなって身に染みて思った。  だから野生の草みたいに自分で元気に生きていくってゆうことが出来ないんだ……。  自然に肩とか背中がしょんぼりしてしまった。 「そのメドは全く立ってないけどね……。  あの店は、普段はショーとかはないけど……。ユリさんみたいにお客さんを取らされるのがオチで……。ユリさんはそういうのが好きだから良いとか言ってたのは前から知っていたんだけど、本当に好きみたいだなって今夜思った。  ただ、僕は……まだちょっと……」  リョウさん以外の人とは出来そうにない。他の人と、とか考えると掌の汗が酷くなってツルツルと滑っている。  リョウさんは広い肩を優雅な感じで竦めて、明るい笑顔を浮かべている。  その顔を何時まででも見ておきたいなって叶わない夢を見てしまった。 「あんなモノが好きな人間の方が少数派だと思うので気にしない方が良い。  オレの商売でも客と親密になるために最も手っ取り早いのがその女性とそういう行為をすることだが、それだって正直タイプじゃない人を抱かないといけないし、満足もさせないといけないので精神的なプレッシャーだ。実際『不能』になるヤツまで居る。  ユキの場合はもっと辛いだろうから……。  オレが言うことではないけれど、栞さんが言っていたように次のショーで纏まったお金を手にしたら、その後でゆっくり身の振り方を考えればいいさ」  リョウさんの言葉がとっても暖かくて、聞いていると涙が出てしまっていた。 「男は涙なんて見せるものではない」とかお父様は若い衆に言い聞かしていたんだけど、そして僕も頼りないとはいえ一応お父様の教えを守っていた積りだった。  でも、なんだか無性に涙を零したくなってしまった。

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