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第25話
これからはお屋敷に居る時と違ってこういう買い物もしなくちゃなんないのも分かっていた。
ただ、そのためにはお金が必要なんだな……って。今まではタンスの中にはきちんと季節に合った服が用意されていたし、冷蔵庫を開けると家政婦さんとかが用意してくれた食べ物がふんだんに詰め込まれていて、それが当たり前だった。
でもリョウさんとデート(だと思う、あくまでも僕的にはそうだった)で洋服を買うにもお金が必要なんだなって実感した。
お父様と出かける時とかでも飲食店に行ったことは有ったけれど、仲居さんに分厚い祝儀袋を渡していたな……って今更ながら思い出した。
その時はそういう習慣なんだろうと思ってた。お母さまだってお茶とかお花の先生にはいろいろな祝儀袋みたいなものを渡していたし。
今思えばあれって飲食代だったんだろうなって。
お父さまの場合は、今日のショーのお客さんみたいに舞台の上を見ながらお酒を呑んだり、お酒のおつまみをゆっくりと楽しんだりするようなことはしなかった。
お母さまとテレビを観てた時に物凄くビックリしたのは「下関直送フグのお刺身」(だったと思う)を一切れ一切れレポーターさんが食べていた。
同じものを出す店にお父さまと行った時は、お箸で掬える全部を一気にお皿から取って豪快に食べていた。
だからそういう食べ方が普通だと思ってたんだけど、テレビの食事レポート(?)でヘンテコな食べ方をするとテレビ局にクレームの電話が入るらしい。
お母さまが読んでいる週刊誌でも「あの女性タレントのお箸の使い方がおかしい」とかでテレビ局に電話が殺到したとか書いてあったし。
だからフグの食べ方もテレビの方が正しいんだろうな。
それはともかく、このお店の支払いは栞お姉さまが呉れたお金だから大丈夫――いずれは返したいけど、稼ぎ方は分からない。だったら僕が今出来ることはショーに出て、なるべくたくさんのお金をもらうしかないんだけれど……。
ユリさんから聞いた話では、ああいうショーも給料の一環でだし「書き入れ時」とかゆっていた。
だったら、頑張って稼がないといけないなって。
「外の空気は気持ちが良いね……」
ただ、そんな決意表明をしても何となくリョウさんは喜ばないような気がして全然違うことを言った。
リョウさんがどう思っていようと僕にとっては花嫁探しのパーティに紛れ込んだシンデレラがダンスの後に宮殿のお庭に誘われたような物凄く特別な時間だった。
それに12時の時計も逆回りしたか止まってしまっているというラッキーすぎるシンデレラなのも分かっている。
頭の中では問題が山積みになっているんだけど、何だか本当に宮殿のお庭に王子様とお散歩している気分になって伸びをした。
お金のこととか、住む場所とかそういうことは今の今考えたって仕方ない。
だからリョウさんと散歩出来る束の間の幸せを楽しみたい。
すると、真っ赤な顔の――多分酔っぱらっているんだろう――小父さんに腕が当たりそうになった。
酔っぱらうまで呑むような人間は僕の周りには居ない。お酒をいくら呑んでも酔って醜態を晒すのは僕の育った世界ではとても恥ずかしいことだ。
でも、その小父さんは何か面白くないことが有ったのか、物凄く怖い顔をして僕を睨んでいて、どうしよう?と思っていたらリョウさんが腕を引っ張ってくれた上に、僕と小父さんの間に長身を挟んでくれている。
もしかしなくても、守られているんだと思うととっても嬉しい。
ただ、リョウさんが予期しない方向に僕の身体を引いてくれたせいで、乳首が布地に擦れてツキンとした甘くて切ない痛みが脳まで駆け上がってきた。
我慢しようと思ったんだけれど、声が零れてしまった。あまりの快感に。
今夜リョウさんとこんな関係になるまでは、手の指とかみたいに付いているのが当たり前のモノだったんだけれど、布地をツンと押し上げている場所が甘くて切ない疼きをもたらす場所に変わってしまっている。
リョウさんに触れられた場所が敏感に快楽を得てしまうようになっている。
何だかギリシア神話だかのミダス王が触るモノ全てが黄金になってしまったという話を読んだことが有るけれどリョウさんの指は黄金じゃなくて快感の甘い砂糖菓子とか胡蝶蘭に変わってしまってしまう感じだ。
「どうした……。もしかして中で出したのが零れて来たのか?」
リョウさんは物凄く心配そうな表情を僕に向けてくれる。くっきりとした男らしい眉も寄っていたし。
――実はさっきからリョウさんの出したモノはお尻の穴から零れている――でも、それを言うのは何となく抵抗があったし、今の声は乳首が擦れてしまっているせいだ。
だから正直に言ったほうが良いんじゃないかなって。
でも、ミダス王も真っ青のリョウさんのタッチのせいでこんな身体になったのは誇らしいっていう側面もあるけど、リョウさんとは今夜のショーが終わればそこでサヨナラをしなければいけないんだっけ。
そう思うと何だか頭が真っ白になりそうだった。
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