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第4話-1
テーブルと椅子が並ぶだけの殺風景な会議室に一人残され、平木は、見るともなしに窓の外を眺めていた。眺める、と言っても、都会の建物はどれも背が高く、せいぜい10階程度のこの場所から見えるのは、いくつかの建物の外壁と、夜には色とりどりに輝くはずの薄汚れた看板ばかりで、秋晴れの静かに澄んだ青空は人工物で遮られて小さく切り取られており、ここではとても、開放的な気分にはなれそうもなかった。
今日は仕事の打ち合わせで黒澤を訪ねた。数名のスタッフを交えた打ち合わせ自体は和やかに進み、またメシでもと挨拶した時、時間があるなら合わせたいやつがいると黒澤に言われ、平木は今、こうしている。こういうことは以前にも何度かあり、別に珍しくはない。ただ、呼んでくるからここにいろと平木に告げて部屋を出る時、一瞬の逡巡の後、嫌なら断っていいからと肩をすくめた黒澤の、あの微妙な表情は初めて見たと、そう思った。
大して変化のない外を眺めるのには早々に飽き、脳内で今制作中のゲーム音楽を意味もなく流し始めたところで、コンコンと扉を叩く音がして、頭の中は瞬間、静かになる。
「はい」
返事を返しつつ椅子を引いて立ち上がりざま、会議室の壁掛け時計にちらりと目を遣ると、黒澤が出て行ってから5分程しか経っておらず、わずか数分をこれほど長く感じる自身の堪え性のなさに、平木は口元だけで薄く笑った。しかしその笑みも、背筋を伸ばして扉に顔を向ける頃には跡形もなく消えており、そっと押し下げられるノブの動きを見つめる間、頭の中では、現在抱えている仕事の進捗、頼まれ得る仕事の種類、自分のキャパと余力の計算が始まり、突然回転数を上げる脳もまた持ち主と同じで堪え性がないとちらりと考え、なにはともあれまずは相手だと胸中に呟き、考えるのは後にしようと扉が開くのを待った。
「……失礼します」
細く開いた扉の向こうから、よく知った姿が現れる。よく知った、というのは、違うかもしれない。考えてみれば、今まで直接話したことは一度もないし、私服姿を見るのも多分初めてで、これで”よく知っている”というのは無理があるかもしれないが、何にしろ、平木の方は彼のことを、よく知っていた。
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