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第3話
4年前、12歳だった暎は、その日唯を見上げながらおかしな気分にさいなまれていた。体の中心が熱く焼けるようで足をもじもじとさせながら水槽にもたれかかる。何かをせかされるような焦りを感じ、しかしどうすることもできずにその場で息を荒げ、暎はただ耐えていた。
ぎゅっと握った手が水槽の冷たさを感じるたびに唯の裸体を見上げてしまう。
「愛している」と言っていた夏希の声が頭の中に響いた。
「暎、どうした!?」
すがりつくように水槽にはりついていた暎を見つけ、夏希が慌てて走り寄ってくる。赤らめた顔を振り向かせ、少しうるんだ瞳で夏希を見上げると、彼ははっと息をのみ、視線をゆっくりと下げると何かに悩むようにぎゅっと目を閉じた。
長い沈黙に不安を感じていた暎は声をかけようとする。その時夏希は目を開くと少し困ったように暎に尋ねた。
「つらいか?」
こくりと頷く暎を見て、また何かに逡巡するようなしぐさを見せて目を閉じる。
「ん」と小さくつぶやいて、暎の手を取った。
「ここに座って」
暎は言われるがままにその場に座り込む。熱がいつまでも体にとどまって頭が焼けるようだった。
同じように座った夏希はおもむろに暎のズボンに手を伸ばす。驚いているうちに下着まで下げられてひんやりとした空気にさらされふるりと震えた。
自分の性器がいつもと違うことに初めて気がついた。
息をのむ暎にかまわず夏希が何も言わずに握り締める。
「嫌っ」と身をよじった暎を見て優しく笑った。
「怖くないから、大丈夫だ」
「ここをこうして、」と説明しながら先端ににじみでているぬるりとしたものをぐるぐるとなすりつける。暎はぎゅっと唇を噛んでその刺激に耐えた。夏希はそれを手のひらにこすりつけるようにぬめらせて、性器を上下にしごきだした。
「ま、待って」と、今まで経験したことのない感覚におじけづいた暎は夏希の腕をぎゅっとつかむ。「嫌だ嫌だ」とうわごとのように口にしていると、夏希が空いている手で暎の頭を抱き寄せた。
「気持ちよくないか?」
そう言われて暎は気がついた。全身が震えるような快感に侵されて恐ろしくなっていたのだと。未知の感覚。じわりとつま先が痺れぎゅっと指が縮こまる。いつの間にか荒げた息の隙間から小さな声が漏れ、夏希の体にしがみついていた。
「あっ」とひと際大きな声が出てびくりと体を震わせると、性器の先端から何かが飛び出した。
どろりとした液体が俯けていた夏希の顔に飛び散る。顔を上げた夏希は苦笑していた。
「元気だな」
眼鏡に滴った白い液体を見て、暎は思わず手を伸ばす。どうしても夏希に触れたいとひどい焦燥感にかられた。
しかし夏希はその手に気づくと「拭くもの拭くもの」と言いながら立ち上がる。もう少しのところで触れられなかった手をぎゅっとにぎるときゅっと唇をかみしめた。
べとべととしたものを優しくぬぐい取りながら夏希が言う。
「どうしても我慢できなくなったら、こうやって処理するといい」
処理という言葉がちくりと胸に刺さって暎は戸惑う。
夏希はへたり込んでいる暎をそのままに立ち上がると、じっと彼を見下ろした。
そして急に両手で顔を覆う。
「ああ、俺子供に何教えてるんだ」
ぶんぶんと頭を激しく振り、少し赤くなった顔を暎から背けると、そのまま研究室から出て行った。
取り残された暎は呆然とする。疼くような体の熱は消えていたが、胸が焼けるような息苦しさが残った。
首をねじって唯を見上げる。
相変わらず唯は美しいままだった。
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