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第4話

 暎はこの施設でおそらく生まれ、そして育った。暎が覚えているかぎり、夏希と唯以外の人間は見たことがない。部屋はたくさんあるのにどこもからっぽで使われていた形跡もなく、夏希の部屋と、暎の部屋、食堂、そして唯がいる研究室だけが暎の活動範囲だった。窓は一つもなく、暎は外に出たことがなかった。それがおかしなことだとも思わなかった。  暎の部屋は広々としたワンルームで、風呂とトイレと洗面所がそれぞれ独立し、部屋にあるのは簡素なベッドと机の上に置かれたパソコンだけだった。早々とパソコンとネットワークを与えられ、それが唯一の外へのつながりとなった。  知りたいことを調べ、知らないことを学んだ。しかし学ぶべきことを学ばないことも、知らなくていいことを知ることもあった。暎にはその判断がつかない。それでも不満はなかった。  この施設にあるものはすべて大人が使うことしか考えられていない造りをしていて、暎には届かない場所がたくさんあった。まだ背も低い幼いときは洗面台にすら手が届かない。何とか自力で生活できるようになるまで、身の回りのことはすべて夏希がしてくれた。  徐々に背が伸びてきて、鏡というものの存在を知った。そっくり反転して自分の姿が映るらしい。はじめは頭しか見えていなかったが、徐々に顔が見え始め、成長するとともに自分が唯にとても似ていることに気が付いた。夏希には少しも似ていない。しかしその時は親子という関係を知っていたので特に不思議だとも思わなかった。唯の子供なのかもしれない。そう思っただけだった。

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