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黙ったままの栗崎に不敵に微笑んだ男の顔は、窓から入るチカチカと光るネオンに照らされ、見惚れるほどの陰影を生む。栗崎はその笑みに誘引されてしまいそうになる自分を恐ろしく感じながら激しく首を横に振った。
「違う……!」
「そう。でも残念だけど、オレが、ヤりたいんだ」
男はサバサバとそう言うと、シャツのボタンを全て外し終え、脱ぎ捨てた。栗崎の眼前には先週見たものと同じ滑らかで妖艶な上半身が迫ってくる。
「ヤりたいから相手を探してたんだ。ちょうどよかったよ」
言いながら、今度はベルトに手をかけ始める。
「お、おい!だから俺は違うって言ってるだろ!?」
栗崎は慌てて腕を掴んで止めさせようとする。
「なんで? 一回ヤるくらいいいだろ?」
瞳を眇めた男が腕を掴まれたまま栗崎の顔を仰ぎ見る。
「…………」
栗崎は一瞬目を伏せ、そして意を決したようにその顔を見つめ返した。
「……俺は、男と寝たことはない」
栗崎の言葉に男は驚いて目を見開いた。
「じゃあ、なんでゲイバーなんかにいたんだ。
しかもあの地下サロンに?」
「あ、いや、バーには強引に連れて来られたというか……。その後酔って、あの地下に迷い込んでしまったみたいなんだ」
栗崎が気まずそうに頭を掻いた。
「へえぇ。あそこ、すんごいセキュリティー厳しいのによく潜り込めたね」
男が面白いものを見るかのように栗崎を見上げる。
「あの地下は、一体何なんだ?」
栗崎はその視線に戸惑いながらも男に問う。
「まあ、平たく言えば会員制の社交場さ」
男は軽く受け流す。
「それじゃ、あんたってゲイじゃないの?」
「……違う」
栗崎は自分で出した答えに視線が揺らぐ。
「ふーん。で? あそこでオレを見て、男を抱いてみる気になった?」
「!」
男のストレートな物言いに栗崎は思わず言葉に詰まった。
「まあいいや。じゃあさ、ヤらなくてもいいから、見ててくれればいいよ」
男はそう言ってまたベルトに手を掛け始めた。
「え?」
言葉の意味がわからず戸惑う栗崎を余所に男はベルトを外し終え、ジーンズを下着と共に脱ぎ捨てると、あっという間に栗崎の眼前で全裸になった。そしてベッドの端に腰かけ、栗崎を仰ぎ見る。
「っ!」
栗崎は数歩後退りし、背に当たった壁に行き場を失い、息を飲んだ。
間近で見る男の胸から腹にかけては、まだ少年の記憶を残したままの様な青さを滲ませていた。しかし全身からは欲望を内に抑え切れず、今にも生々しく咲き零れそうな艶めかしさを放っている。
「そうそう、じっくりオレを見下ろしててね」
男は背を反り右手で体を支え、自分の股間に左手を伸ばした。薄闇の中でその部分が見る間に形を成していく。
「な、何やってるんだ……!」
栗崎が焦った声を上げる。
「……んっ」
しかし栗崎の戸惑いの視界の中で、男の呼吸は荒くなり始める。
(この男は俺に見られながら自慰をすることで、興奮するのか……?)
栗崎はただ壁に打ち付けられたように張り付いたまま、目の前で繰り広げられている淫靡な行為から目が離せなくなっていく。
それは男に言われたからではなく、栗崎の深淵から湧き出た欲望がそうさせていた。
青白く光るしなやかな体、腕が上下に動かされる度に見られる筋肉の躍動、吐き出される甘い吐息。
男は伏し目がちにその快感に感じ入りながらも、時折、栗崎の顔を仰ぎ見てはより左手に力を込める。
「あっ…っ…んん」
男の漏らす声とその体が発する淫らな香りに、栗崎の体にも有無を言わせぬ反応が起こり始める。
(お、俺は、男に欲情しているのか? そんな……っ)
自分自身にたじろぎ、目を瞑ろうとするが、男は栗崎の反応を目ざとく見つけだした。
「勃ってる」
「っ!」
少し嬉しそうに男は言うと、自分を扱く腕を止め、栗崎の足元に跪いた。
「な、何するんだっ!」
うろたえる栗崎のスラックスのベルトに手をかけると、男は慣れた手つきでそれを解いていく。
「おいっ、や、やめ……っ」
驚いた栗崎の腕が抗うように男の肩に置かれる。
「やめない」
しかし、男はすぐにベルトを抜き取った。
そしてスラックスが足元に落とされると、栗崎の芯がトランクスの下で起き上がっているのがわかった。男に見られているという羞恥が、抑えようとしても余計にその質量を増してしまう。
その時、男の手が栗崎の熱い芯に触った。
「んっ!」
布越しなのに、その感触に栗崎は思わず声を漏らしていた。
「すごい、大きいんだね」
男が手を動かしながら蠱惑的な瞳で栗崎を見上げている。あのステージで見た名も知らぬ美しい男が今、自分の秘所を触っている。
その事実だけでも全身に言い知れぬ背徳的な痺れが湧き起こる。
男の長い指から伝わる刺激で、栗崎は立っているのも辛くなっていく。そして、あっという間に下着が下ろされ、男の目の前に栗崎の茎が大きく反り返った。
「……!」
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