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まだ夜が明ける前、トオルがゆっくりと寝返りをうった。
そして自分の腕の中から起き上がるのを感じ、栗崎は思わずその手首を掴んだ。
「リョウイチ?」
驚いたように振り返ったトオルを、栗崎は不安に揺れる瞳で見上げた。
「どこへ行く?」
トオルはそんな栗崎を見下ろして「トイレだよ」と小さく微笑んだ。
栗崎はふうっと息を吐くと、手首を掴んだ手の力を緩める。
「朝起きたら、またおまえが、居なくなってるのかと思うと……」
そう言った栗崎の声は切なげに掠れていた。
「……リョウイチ、馬鹿だな」
トオルはトイレから戻るとまた栗崎の腕の中に戻ってきた。
そして体を預けるように寄り添ってくる。
栗崎はその肩を抱き寄せ、腕の中に閉じ込めた。
「リョウイチ……」
囁きながら、トオルも栗崎の身体をギュッと抱き締め返してくる。その感触に栗崎は微かな安堵を感じた。
だが、もう眠れそうになかった。
腕の中でまた規則正しい呼吸を始めたトオルの体温を感じながらも、栗崎はただ天井を見上げていた。
トオルが呼んだ名前。
よくは聞き取れなかったが、思い出そうとすると胃の上部が冷水を浴びせられたようにギュッと痛む。
『俺には愛してる人が……』
トオルの言葉が蘇る。
(体は一つになれたはずなのに、トオルの居る場所はまだまだ遠いのか……)
栗崎はトオルの柔らかな黒髪に唇を押し当て、苦しげな吐息を漏らした。
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