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―――― 「おはよう、トオル」 ぼんやりと何かを探しながら、寝室から繋がるリビングの扉を開けたトオルに、対面式のキッチンから栗崎が声を掛けた。 「リョウイチ? 起きたらいなかったから、びっくりした……」 栗崎のTシャツを着たトオルは、少しの不安と機嫌の悪さを滲ませながら栗崎の元へと近づいてくる。 その様子が親を探す子猫の様で可愛くてたまらない。 「それは悪かった」 苦笑いしながらトオルの手を取ると、カウンター前にある小さなダイニングテーブルに座らせた。 自身はキッチンに戻り、注いだ味噌汁の椀を二つ持ってくる。 「さあ、できたぞ」 トオルの目の前には焼いた鮭の切り身と炊きたてのご飯、そして優しい色をした出汁巻き卵が二膳ずつすでに並んでいた。 「これ、リョウイチが作ったのか?」 驚いた顔で栗崎を振り仰ぐトオルに、栗崎が少し照れたように頷く。 トオルは栗崎が向かいに腰を下ろすのを見届けると、「食べていいのか?」と小さな声で聞いた。 「ああ」 笑顔で頷いてやると、トオルは「いただきます」と手を合わせ、恐る恐るといったふうに卵焼きを口に運ぶ。 「ん!」 次の瞬間、トオルの顔にパアッと幸せの滲んだ笑顔が広がった。 「おいしい!」 その笑みが栗崎の心にも沁み込んでいく。トオルを笑顔にできたことが栗崎の心をも幸せにした。 次々に食事を口に運び始めたトオルを見ながら、栗崎も自分が作った朝食に箸を付ける。 トオルはあっという間に食べ終えると、箸を置いて、じっと栗崎の顔を見つめてきた。 「どうした?」 箸を止めて、不思議そうにトオルの顔を見返す。 「リョウイチ……、オレ、またここに来てもいいか?」 そう言ったトオルの顔は不安げで、瞳は何かを探るように心許なく揺れていた。 その表情に、栗崎は胸を衝かれる。 「ああ、もちろん」 栗崎が包み込むような笑顔で返事をすると、トオルは心底ホッとしたように息を吐き、はにかんだ笑みを見せた。 「今度は何が食べたい? 俺で良ければ作るが」 「ほんとかっ? えっとね、……肉!」 身を乗り出すようにしてそう言ったトオルに噴き出しながら、栗崎は左手で頬杖をつき、右手でその頭を撫でやる。 「そうか、分かったよ」 トオルは目を伏せ、栗崎の撫でる手のひらに猫のように頭を持たせかけてくる。 栗崎はそんなトオルをずっとずっと撫でていたいと思った。

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