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ハッと目を覚ました。
目の前には心配そうに栗崎を覗き込むトオルの顔があった。
「リョウイチ、大丈夫か?うなされてたみたいだったから、起こしたんだけど」
背中にはびっしょりと汗をかいており、早くて浅い呼吸を繰り返していた。
栗崎は起き上がって、汗が浮き出た首筋を手の甲で拭った。
トオルはペットボトルのスポーツドリンクを持ってきて栗崎の口元に運ぶ。
「熱が上がってきたのかもな。これ、飲んで?」
『ガッ』
しかし、栗崎はそれを腕で払い退けた。そしてやにわに、腕の中にトオルを掻き抱く。
「っ! ど、どうしたんだ、リョウイチ?」
スポーツドリンクが床でコポコポと音を立てて零れている。
「俺は……、おまえがいないとダメになりそうだ」
トオルの胸に顔を埋めて、栗崎は掠れる声を出した。
その腕は縋りつく様にトオルの背中に回されている。
夢の続きにいるような、掴みどころのない不安と焦燥が栗崎の胸を締めつけていた。
「以前は……、おまえに出会う前は、一生一人でもいいと思ってた。それも楽だって。それなのに今は……、おまえがいなくなることが、一人になることが、怖い」
自分の肩が震えているのが、熱のせいだけではないことが栗崎をより不安にさせる。
(そうだ……俺は、どうしようもなく、トオルに溺れてしまっている)
栗崎はやっと自分の中の不安と向き合う。
俺のパソコンから見積もり額を見たのか。
名字はなんだ。
昼間は何をしているんだ。
まだあの地下サロンに顔を出しているのか。
他の男にも抱かれているのか。
俺以外の男を愛しているのかーー。
そんな疑問全て、栗崎は胸の奥底に仕舞っていた。
何かを聞いて、トオルがどこか手の届かない場所へ行ってしまうのが、怖かった。
(本当は気付いてたんだ……。いくら待っても、トオルが俺にキスしようとしないことも、俺がどんなにおまえを好きだと言っても、おまえが俺を好きだと言うことは、ないことも……)
トオルの全てに向き合うと、この事実を突き付けられるのが怖かった。
栗崎とトオルは何度も体を繋げてはいたが、キスをしたことは未だなかった。
好きだと伝えるたび、トオルの目が自分を通り越して他の誰かを見ていることも感じていた。
栗崎はその存在を確かめるように、トオルの背に回した腕に力を込めた。
腕の中のトオルは身動ぎ一つせず、ただ栗崎に抱き締められている。
(でもトオルはここに居るじゃないか……。俺の腕の中に。なのに、不安で不安で堪らない……)
トオルは最初から愛してる人がいると、言っていた。
栗崎は『知ってる』と答えた。
ホテルで初めて腕に抱いて寝た時は確かだと思った感触が、好きになればなるほど儚く、今にも消えそうに感じる。
(こんな想いを抱えてるのは、俺だけなのだろう?)
「トオル…好きだ……」
栗崎は苦しい想いを絞り出すように声を漏らした。
すると、トオルは栗崎の両肩に手を置き、自分から少し引き離す。
「リョウイチ……」
そして栗崎の熱と不安で揺らぐ瞳を見つめた。
「オレは……、リョウイチに話さなきゃならないことがある」
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