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「じゃあ、何か悩み事かい?学校のこと?それとも進路?」
波田野の声音から、心底オレを気遣ってくれていることが分かる。
でもオレの心は引き千切られ、今にも叫び出しそうだった。
「違うっ!」
頭を強く横に振り、唇を噛み締める。
「透君、最近の君は本当におかしいぞ?言ってくれなきゃわからないじゃないか」
オレは顔を上げた。涙が込み上げ、波田野の顔が歪んで見えた。
「ど、どうしたんだ?透君……」
波田野が驚いた顔でオレを見つめ返す。
「オレ、オレは……」
込み上げてくる胃酸を飲み込みながら、血が通わなくなるほど強く固く、手のひらを握り締めた。
「どうしたんだ、言ってごらん?言ったらすっきりするだろう?」
波田野は優しく言って微笑んだ。
この笑顔が明日には母のものになる。
オレとこの人は親子になる。
焦りと悔しさと嫉妬で、気が狂いそうだった。
オレの気持ちを知っても、またその笑顔でオレの名を呼んでくれるだろうか?
オレの気持ちを知ったら、母との結婚を止めてくれやしないだろうか?
オレの気持ちを知ったら、オレのことを好きになってはくれないだろうかーー。
乱れた呼吸を整えながら、オレは必死な眼差しで波田野の顔を見据えた。
「波田野さん」
「ん?」
波田野がオレの瞳を覗き込んだ。
「オ、オレ……、波田野さんが、好き、なんだ……!」
想いが、溢れ、零れ落ちた。
一瞬の空白があった。
「と……透君……」
波田野の口からはただその空白を埋めるようにオレの名が呟かれた。
目の前の波田野の顔は急激に青ざめていった。
そして、困惑した表情でオレの顔から視線を逸らした。
(どうして?どうして、そんな顔するんだ……)
波田野の隠し切れない狼狽がオレの心臓を抉る。
しかし波田野はすぐに繕った笑顔になると、「と、透君……私も、透君のことは好きだよ?大切な自慢の息子だよ」と言い添えた。
「!」
オレは唇を噛んだ。
(好きだという気持ちすら、受け入れてもらえない……?)
叫び出しそうになるのを必死に堪え、波田野の顔を涙目で睨み上げる。
そして、できるだけ冷静に言葉を継いだ。
「はぐらかさないで、波田野さん。オレの好きは、違う……。家族の好きじゃない」
「し、しかし、透君。君の気持ちはきっと、その、思春期特有のもので、父親への愛情が倒錯した形になったものではないかな」
波田野は医者の顔つきになり、探り出した言葉でオレを諭し始める。
その様子にオレはカッと火がついたように手を伸ばし、波田野の腕を掴んだ。
「違う!どうしてわかってくれないんだ!オレの気持ちはそんなんじゃない!」
波田野の腕を掴んだ手に力がこもる。
「オレはずっと……!そう、一目惚れだったんだ。あの日、あの時、初めて桜の木の下で見たあんたを……、オレはずっと好きだったんだっ!」
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