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番外編①「今日の夕食は……?」
「これで……、いいのか?」
難しい顔をしたトオルが包丁を持ったまま栗崎を振り返った。
栗崎のマンションのキッチンで二人は夕食のハンバーグを作っている。
挽肉を捏ねていた栗崎はトオルの手元を覗き込んだ。
「もう少し細く切ってくれよ」
栗崎が笑いながら手を洗う。
まな板の上には、バラバラな太さのキャベツが並んでいた。
「トオルはこっちの方がいいんじゃないか? あとは俺が切るからトオルは肉を混ぜてくれ」
トオルは渡されたボールの中の挽肉を訝しげにじっと見つめた後、そっと手を差し入れた。
「冷たっ! リョウイチ、なんかこれ気持ち悪い!」
騒ぎながら挽肉に触れるトオルに、栗崎は嘆息しつつその背後に回った。
「よく捏ねないとうまくならないぞ?」
「でも……」
トオルが困惑した瞳で栗崎を仰ぎ見る。
栗崎は見かねて自分もまたボールに手を入れた。
「こうしてもっと強く……」
栗崎とトオルの手が肉の脂にまみれていく。
一瞬、腕の中のトオルの体がビクリと震えた。
しかし栗崎は気にも留めず、トオルの手と一緒に挽肉を捏ねていく。
トオルは大人しく俯いてボールの中身をじっと見つめていた。
「えっと…、つなぎのパン粉……」
栗崎が手を離し、視線だけで調味料棚を探していると、トオルが身をよじって栗崎と向かい合った。
「ん? なんだ?」
「やっぱりハンバーグは後ででいい! リョウイチから先に食べるっ!」
蠱惑的な眼差しで栗崎を見上げていきなりそう言うと、脂まみれの手を首元に回してくる。
「何言ってるんだ、もう少しでできるのに! あ、そんな手でくっつくな!」
栗崎は眉間に皺を寄せてトオルの腕から逃れようと後ずさる。
しかし、トオルはさらにギュッと栗崎の身体を抱き締めてきた。
「だって、オレ、もう我慢できない!」
トオルがしかめっ面をして甘えた声を出す。
その様子に栗崎は大きな溜息を吐きながらも、胸が疼き、愛しさが込み上げてくる。
「……言っとくが、食べられるのはおまえの方だからな」
栗崎はトオルの手を洗ってやると、その体を横抱きに抱え上げた。
そして嬉しそうに微笑む唇に甘い口づけを落としながら、寝室へと運んで行った。
***終わり
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