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第3話
「アキト、誰にでもついて行くなよ」
パーティ当日、何を注意したらいいのか迷った結果、リカルドはそう口にした。
「へえ…。つまり誰かが誘ってくれるってこと?」
案の定、アキトは楽しみだとうそぶく。これはほいほいついて行きそうだ。
リカルドの渋面を見てアキトはにっこりした。28歳だが日本人は若く見える。無邪気を装った笑顔になると2才上とはとても思えない。
「冗談だよ。リカルドの面子を潰すようなことはしない」
どの口が言うか。
さっきまで濃厚に口づけていた唇は赤く濡れていて、ぞくっとするほど色っぽい。
「初対面でフェラしたくせに」
「あれはご挨拶のキス」
アキトはくすくす笑う。確かにそうだ。
「お望みの場所にキスしてあげましょうか」とアキトに唆されてそれを希望したのはリカルドだ。
「あんなことしたの、リカルドだけだよ」
絶対嘘だろ。
いたずらっぽく微笑むのを見て、ここに連れて来たのはやはりマズかったと思う。
以前もクルーズ船のパーティに同伴したことがあったが、今回はミケーレの屋敷でプライベートな友人を招いての小規模なもので、つまり悪友ばかりが集っている。
あの連中にこんなアキトを見せていいのか?
そう思う間にリムジンは車寄せに着いてしまう。
「よく来たな、リカルド。連れの方も」
ミケーレが機嫌よく笑いかけた。
リカルドが選んだ明るいグレーのスーツを身につけたアキトはとても品よく見える。
「お招きありがとう、加賀美彰人です。素敵なお庭と伺って楽しみにしてきました」
ミケーレの屋敷には希少な薔薇のコレクションがあり、今日はその鑑賞会という名目だ。
広い庭はパーティのために飾り付けが施され、テーブルには料理が並び、メイドが飲み物を運んでいる。
「ありがとう、ミケーレだ。君の噂は色々と。アキトって呼んでも?」
「ええ、もちろん」
シャンパン片手に和やかに会話が進む。
その気になればアキトはお行儀よく上品な会話もこなせた。
「3月のパーティで会いましたね」
「ああ。君の揚げた海老と帆立は最高だったよ。うちにも来てくれる?」
「出張シェフですか?」
「いや。プライベートシェフとして」
ミケーレはさらりと専属だと誘う。
「この街に日本食の専門シェフは多くないからね。腕のいいシェフは逃したくない」
「せっかくのお誘いですが、もう専属なんです」
「そうなのか?」
その返事にほっとしたのも束の間、リカルドは腰を抱き寄せられた。
「ええ。俺の料理を食べたいってダダをこねるアモーレがいるもので」
アキトは思わせぶりにリカルドを見上げ、栗色の髪を指に巻きつけると軽く引いて耳元に口づけた。
周囲が一斉にざわめいたが、リカルドはこれ幸いと平然とアキトの髪を撫でてみせる。
「おや、それは残念だ」
ミケーレはにやりと笑うとひょいと肩をすくめた。
そんな気障な仕草が嫌みにならない伊達男は金髪を揺らしてアキトにウィンクする。
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