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第4話

「チャオ、ミケーレ。リカルドの彼が来てるんだって?」  開けっぴろげに訊いたのは顔にそばかすが散った青年だ。 「不作法だぞ、マルコ。ほら彼だ、名前はアキト」 「チャオ、アキト。きれいな顔だね、髪もつやつや、お肌もすべすべだね」  開口一番、そう誉められてアキトは吹きだした。 「まじでリカルドとつき合ってるの? 俺にしない? リカルドより楽しいよ」  本人を前にしてマルコは屈託ない。  「マルコ、ちょっとは遠慮しろ」 「いいじゃない、リカルド。みんな、噂の東洋の黒薔薇を見に来たんだから」  品のいい声で若い男が入って来た。 「チャオ、アキト。前にオペラ座で挨拶したんだけど」 「覚えてますよ、アンジェロ」 「嬉しいな。ねえ今度、うちのパーティにも来てくれる?」 「どんなパーティ?」 「仮装パーティだよ。君なら何に仮装する?」 「そうですねえ、道化師かな?」  アキトはここでの役割をそう決めたようだ。 「なるほど。…俺なら君にパックの衣裳を用意するよ」 『真夏の夜の夢』に出てくるいたずら好きの妖精だ。確かにアキトはいたずら好きだ。 「それも悪くないな」 「じゃあ是非来て。招待状を送るよ」  アンジェロはアキトを気に入ったらしい。  早々に引き離したほうがいいと、リカルドはすっとアキトの腰を引いた。それを見たアンジェロが苦笑するが知ったことか。 「アンジェロ、またな。当主に挨拶に行ってくる」 「はーい、またね、リカルド。アキトも」  手を振るアンジェロにアキトは軽くウィンクした。 「当主に挨拶は?」 「どうでもいい」 「怒ったのか?」 「いや」  怒ったわけじゃない。こうなることは予想していた。 「やっぱり連れてくるんじゃなかったな」  リカルドの栗色の髪に指を絡めて、アキトはふふっと笑った。 「こんなのその場限りのお遊びだろ?」  上流階級の気まぐれだとアキトはわかっている。 「そうだけど、君が連中と笑ってるのをみると腹立たしい」  素直に嫉妬を口にしたリカルドに、アキトはちょっと目を丸くした。 「本当に嫌だと思ってる?」 「少しだけな」  強がりな返事には絡めた指へのキスが落ちてきた。

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