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 地下への扉の南京錠を何とか自力で開けた。中へ入って扉を閉める。  ああ、沈丁花の香りだ。  僕と番になったせいで秀の発情期の香りは以前よりは弱まったし、他のアルファを刺激することもほぼなくなったはずだ。  ただ、僕だけを誘蛾灯のように引きつける。  壁伝いに石段を下りる。 「秀、秀?」  沈丁花が、揺れた。 「良様?」 「そうだ」 「どうやって鍵を?」 「お祖母様の回りをうろうろしていたら、貸してくれたよ。鬱陶しいって」  階段を降りきると秀にも僕の姿が見えたらしい。 「ああ、良様……」  秀の感情の高まりが、花の香りに直結している。くらくらするほどだ。 「秀、牢の錠前の鍵はわかるか?」  気が急いているのは僕も同じだ。秀に鍵束を見せて、一本選ばせた。手探りで錠前の穴に差し込み、捻る。金属の擦れる音がして、錠前は外れた。  早く秀に触れたいのを我慢し、中に入った僕は縋り付いてくる秀をそのままに、あえて中から錠前を掛け直した。鍵束は秀に渡して秀の着換えを並べた棚に置かせた。  これで朝になっても僕を簡単にはここから引きずり出せない。 「お待たせ、秀」  秀の頬を探して包み込むと、もう涙に濡れていた。 「良様、お会いしたかった」 「泣き虫だな、秀は」  唇を探しながらキスを散らす。一度唇がしっかり重なると、秀が舌を求めてきた。秀の舌使いに体が熱くなって、手で秀の体を探る。  秀と僕とは十センチ以上も身長差がある。口づけながら秀に導かれて布団に押し倒した。  秀はパジャマではなく、浴衣のような寝間着を着ていた。首筋に舌を這わせつつ、前のあわせをくつろげる。  秀の手はせわしなく僕を確かめるように這い回る。くすぐったさに笑いながら秀の兵児帯を解きにかかる。  秀は浴衣の下に何も着ていなかった。パンツさえだ。だから秀が既に気持が高ぶっているのを体に感じた。 「申し訳ございません。良様のお寝間着を汚してしまって」  恥ずかしげな言葉とともに、パジャマのボタンが外されていく。面倒になって自分で下着ごとパジャマのズボンを脱ぎ捨てた。 「秀」  裸で抱き合い口づけを何度も交わす。高まった欲望は互いの体の間で擦れ合い、腹をねっとりとした液が汚し合う。秀の手が僕の欲望を温かな手のひらに握り込んだ。先端からくびれ、それから幹へと粘液を絡めながら細かい刺激で、僕はすぐに高みに突き上げられそうになり、慌てて秀の手を掴んで止めた。 「良様」  甘えた声が不満を含んでいる。僕は笑いながら秀の尻の奥へ指をやった。  秀の体がびくんと跳ねた。  発情期のオメガの後孔はやはり柔らかい。僕の指をあっさりと二本受け入れた。まだ手の大きくない僕は必死に秀の中を探る。もどかしげに秀が腰をうごめかす。 「あっ」  可愛らしい声を秀が漏らした。偶然触れたらしい。  僕は指を増やして、秀の感じるところを求めた。 「ああ、んっ」  沈丁花が香る。声が変わり、秀が脚を開いたのがわかった。  丁寧にそこを揉むと秀の腰がふるふると揺れる。  指が濡れるのは、発情期だけに分泌される液体のせいだ。  オメガの体には男女の別なく直腸の奥に擬子宮がある。言うなればオメガの肛門とはニワトリの総排出腔に相当するわけだ。

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