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第4話

「じゃあ、おミヨさんのところへ行ってくるな。お前さんはゆっくり休んでろよ」  スイがまだ傷が塞がっていないからと心の中で言い訳しつつ、男のところで世話になって早十日。  男は昼間せっせと傘や草履を編み、それをミヨという名の女のところへ持って行って銭や食料やと交換していた。  スイは幾度もミヨという名を耳にし、その度に胸がじくじくと痛むのに首を捻りながら、男の出掛けている間に川へ向かい、魚を獲って帰るようになった。 「また獲ってきてくれたのかい! ありがたいなぁ。気を遣わなくていいんだからな、お前さんは怪我人なんだから」  頬を丸くして笑う男に、スイは焼いた魚が美味しかったからだ、とまたしても心の中で言い訳するのだった。  それからあっという間に季節は過ぎ、冬がすぐそばまで忍び寄ってきた。スイの怪我はとうの昔に治っていたが、男と一緒にいるのは心地よく、ずるずるとここまで来てしまったのだ。  水辺で暮らす河童にとって寒さは苦ではなかったが、スイは隙間風が寒いからと言い訳しながら小屋の修繕をしたり、炎を見るのが楽しいからと言い訳しながら森へ入って薪を集めたりするようになっていた。 「怪我の調子はどうだい、まだ痛むかい」 「…ああ」 「そうかい。随分と寒くなってきたからなぁ、ゴホッ…こう寒ぃと、ゴホゴホッ」 「おい、大丈夫か」  スイは部屋の隅に畳んであった夜着を男の肩に掛けてやった。すまんな、と礼を言った男の頬は、スイが出会ったころより随分と痩せこけていた。 「薬はないのか」 「ゴホ、高くて買えねぇよ。ゴホッ、うつるといけねぇから、おれに近寄るな」  手を突き出してスイと距離を取ろうとした男だったが、スイはその腕ごと男を抱きしめた。 「くっついてるほうが、暖かいだろ」 「…そうだな、こりゃあったけぇ。へへっ、男同士でなんだか照れ臭ぇな」  スイの腕の中で笑う男の笑顔が、スイの胸に突き刺さった。  何故だか叫び出したくなる感情を抑えるために、スイはぎゅっと腕に力を入れた。  その日は本格的な冬の到来を思わせる凍てつく夜となり、二人は抱き合って一つの布団で寝た。

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