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第4話

「必要ないっておかしいだろ。なんで血が適合しただけで、たったそれだけで当たり前の権利を全部奪われないといけないんだ! 俺は――」 「それ以上は、言っちゃだめだよ」  そっと、しかし有無を言わさぬ強さで葎は雪月花の口を掌で塞いだ。 「ねぇ、不満に思うのは仕方がないけど、あんまりオイタはしちゃダメだよ」  カリッと雪月花の耳を葎が甘噛みする。ピリッと走る痛みと、濃く香るムスク。これは、葎が放つフェロモンの香り。 「それとも、もう諦めがつくように……大人になってしまう?」  ゾクリと雪月花の背筋に震えが走った。鼻孔をくすぐるムスクの香り。  以前葎は言っていた。〝もしも雪月花が期限までに発情期を迎えなかったら、僕のフェロモンで誘発してあげる。雪月花を早く番にしたいけど、例え誘発剤だったとしても雪月花の身体に、必要のない薬は入れたくないからね〟  彼は、自分を発情させることができる。それを思い出して、雪月花は首を横に振った。漸く葎の手が口元から離れる。 「……ゃだ。ぃやだ……」  初めて出会った時から、葎に対して覚える恐怖。自分が呑み込まれるような、本当の意味で雁字搦めに縛り付けられるような……もう二度と外には出ることができないと思う、そんな恐怖。  葎は手の動きだけで女に部屋から出るよう指示した。必要でもないのに自分以外の人間が雪月花の視界に映ることさえ腹立たしい。無言で女が退室し、パタンと扉が閉められた音を聞いて、葎は雪月花をあやすように瞼に口づけた。 「泣かないで。ね? この揺り籠の中でも雪月花が幸せだと感じられるように、僕がずっと側にいて、雪月花をいっぱい甘やかしてあげる。ギュッと抱きしめてあげる。雪月花の食べたいものも、着たい服も、全部僕が雪月花にあげる。自由に代わる沢山のものをあげるから、ね? そんな風に悲しまないで」  頬を包む葎が親指の腹で目元を撫でた。まるでガラス細工に触れているような、繊細なものを壊さないようにというような、優しい動きが雪月花には恐ろしくて仕方がない。 「そんなもの……いらない」  葎は何でもくれると言った。でも雪月花が欲しいのは葎が唯一〝あげる〟とは言わない、否言えない自由だ。それが得られるなら、沢山の御馳走も服も、葎からの甘やかしも、何もかもいらない。

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