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第7話

「では明日に持ってきますね」  その約束通りに、男は次の日手持ち花火を持ってきた。音が大きいものは流石に内緒にするのは難しいと、彼が持ってきたのは線香花火だった。 「いいですか。必ず消すための水を用意してからにしてくださいね。この部分に火を付けて、こういう風に火が下になるようにして持つんです。小さな火の玉がポトンと落ちたら、終わりです。決して水に濡らしたりして、花火を湿らしたりしないでくださいね。濡らしてしまうともう花火は使えないですから」  男の説明を真剣に聞いて、雪月花は懐に花火を隠した。幾つか貰った線香花火をどうやって楽しむか、そればかりが脳を駆け巡る。外には出られないが、ほんの少し、普通の人と同じことができると心躍らせる。早く夜にならないか、そんな事ばかりを雪月花は考えていた。  漸く夜になり、雪月花はこっそりと揺り籠の扉を開いた。誰もいないことを何度も確認して、ソロソロと足音を殺しながら廊下を歩く。いつも使う正面玄関には警護の見張りがいるため、ノコノコ出て行っては部屋に連れ戻されてしまう。だから雪月花は使用人が使う裏口の一つに向かった。裏口はすべて外から鍵を開けることができないような構造になっており、内側からしか開かない。だからこそ護衛もいないだろうと考えた。その予想は的中し、雪月花は置いてあった掃除用のバケツを持って急いで水を入れ、それとライターを持って裏口の鍵を開けた。外に出て建物の隅に移動する。ここなら警護の目も届かないだろう。  雪月花はウキウキしながら懐に大事に隠していた花火を一本取り出して火をつけた。暗闇に光る橙の丸い炎。チラチラと小さな光が弾けている。 (うわぁ!)  初めて目にする花火は、とても綺麗だった。たかだか炎とは言えない、素朴ながらに心惹きつけられる美しさがある。雪月花はその光に釘付けになった。

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