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第一章 狼は愛を知らない 2

 西園寺莉玖(りく)所謂(いわゆる)〝不良〟と呼ばれる部類の人間だ。見た目からして金髪で耳にはピアスをずらりと開け、制服のブレザーも常に前開き、シャツの裾は出したまま。  両親は幼少期に離婚して、彼は母親に引き取られたが、母親は男を家に連れ込む事に夢中で、彼にはあまり愛情を注がなかった様だ。  誰からの愛情も貰えなかった彼はそのまま非行へと走り、喧嘩三昧の日々となった。  しかし彼は中学時代に母親が再婚した相手が金持ちだった事から、俺のいる金持ちが通う進学校へと入学した。  彼は授業はサボって他校の不良仲間と遊んでばかりだが、地頭が良いのでテストの成績が良い事と丁度進級出来るギリギリの日数を分かっているので、教師から咎められる事はあまり無い。寧ろ教師も生徒も彼を恐れて近づかない。  斯く言う俺も生徒会の引き継ぎ業務に日々追われ、こいつに興味なんて毛ほども無かったのだが‪──…… 「お、西園寺。ちゃんと来たな。よしよし」 「……テメェのお付きが迎えに来たからしょーがねーだろ」  土曜日の夜。俺は西園寺を別荘へと呼び出していた。俺の家は超がつく金持ち。この別荘は俺専用に貰った和風の造り。今日は畳と布団と浴衣でセックスの気分だ。浴衣姿の西園寺はさぞかし色気が出るだろう。  古着のバンドTシャツと古着のデニムで怠そうに迎えの車から降りた彼を玄関へと誘導する。しかし、本人の素材の良さの所為かボロボロの服でもオシャレだ。今度は俺チョイスのスーツを着せて高層ホテルでセックスにしよう。 「ご飯だけ用意して貰ったらみんな離れの別邸で休んでもらうからさ、明日の夜まで俺とセックスな。アナル洗浄の道具も置いといたから飯食ったらそれ使え」 「夜って…山田…お前写真と動画消す気ねーだろ…言う事聞いたら消すつってたよな」 「消す訳ねーだろ。西園寺、お前は俺の恋人になって貰うって言っただろ。あと悠矢って呼べって何回言わすんだよ。この間は言えてたのに。なぁ莉玖?」 「気安く名前で呼ぶな。お前マジふざけんなって…お前が恋人だとケツもたねぇ…」 「じゃあ俺の事殺して写真と動画消すか? でもコピー沢山したから消すのは無理だし、俺はお前よりケンカ強いから殺されない。したがってお前はずっと俺の物。わかった?」 「わかんねぇ…」 「いや分かれよバカ。口答えすんなバカ。俺がやりたい時にケツ突き出せバカ」 「クソ……性奴隷じゃねーか…」  俺は西園寺に興味がなさ過ぎて、二年生になった最近まで彼の顔を知らなかった。だがたまたま見かけた男が俺のタイプの顔で、そいつが西園寺莉玖だったという訳だ。俺は男を好きだと思ったのは初めてで、自分がバイだという事をその時知った。  俺は速攻で西園寺に告白したが、西園寺は「気持ち悪りぃんだよ!」と怒鳴り散らすだけだった。  拒否されたらしょうがない。言う事を聞かすまで、と山田家当主として育てられてきた俺は立ち去ろうとする西園寺を殴った。空手有段者だから威力は抜群だ。  倒れ込んだ彼は自分が敵わない相手に殴られ鼻血を出して少し怯えた顔になったのだが、俺はその顔を見て自分の股間が反応した。そして綺麗な顔で強さを誇示していた彼が俺に屈服するのを見たくなり、欲情した俺は誰も来ない部室で彼を無理矢理犯した。男を抱くのは初めてだったが、彼の身体の気持ち良さに驚愕した。彼が益々欲しくなった俺は、その時に撮影したハメ撮りで彼を脅して〝恋人〟という事にした。それから無理矢理抱く毎日だ。  そう、俺は本当に最低野郎だ。自分でも引く。だけどこの衝動を止められない。最初は顔と好奇心。だけど俺はたとえ二週間ちょっとでも、この西園寺莉玖という人間を愛してしまったのだ。 「……美味っ。何だこれ」  西園寺が大トロの刺身を食べて小さく漏らした言葉を聞き逃さなかった。刺身食べた事ないのかよ? と呆れて言うと、彼はうるせぇとだけ発して、次にハマチの刺身を醤油皿につけた。 「脂のある刺身食ったら次は白身の魚にしろよ」 「……好きに食わせろや」 「刺身美味い?」  にこにこ顔で訊くと「さっき美味いつったろ」と彼はまた次の刺身に手をつけた。山田家が贔屓にしている料亭の板前をこの為に呼んだので、その甲斐があった様で嬉しい。  西園寺は家族とあまり仲が良くないので自宅に帰っても食事は取らない。ただ寝るだけだ。 「どうせお前普段コンビニとファストフードだろ。家ちゃんと帰ってんのか? あ、どうせなら俺の家来る? そしたら毎日セックス出来る♡」 「うるせぇ住む訳ねーだろ……美味っ。これも美味いな…」  西園寺とはいつも俺が脅迫めいたセックスしかしていないのでこうして普通に食事をしている事に嬉しくなる。因みにセックス中に髪の毛を掴んだりしてしまうのはプレイの一貫だ。俺はあまりやりたく無い。まぁ征服欲が満たされるのは否定出来ないが。うん、俺は結局こいつを抱くのが好きって事だ。無理矢理でも合意でもこいつの身体は気持ちが良い。  西園寺は学校だと態度が可愛くないが、家でセックスをするとトロトロになる。俺はその時の西園寺とのセックスが凄く好きだ。俺の事も名前で呼んで求めてくれる。  出来ればいつもこんな風に二人で過ごして、幸せにセックスをしたい。俺は愛とかはよくわからないが、きっとこれが愛なのだと思う。期間やきっかけなんて関係ない。ただ西園寺が存在して俺を見てくれるだけで心が温かくなる。  だから彼にはもう少し俺に甘えて欲しい。その為には、西園寺莉玖をもう少し開発する必要がある。  そう、彼を俺無しじゃいられない身体へと作り替えるのだ。そうすれば俺達はずっと一緒にいられるのだから。

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