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第二章 愛に怯える狼 1
山田悠矢の恋人にさせられて二ヶ月程が経った。季節は春から夏に差し掛かろうとしていて、鬱陶しい梅雨の雲が晴れて、空がどんどん高くなっていく。俺はそんな空をゆっくり見る暇もなく、土曜日の今日も朝から山田に抱かれている。
「あっ♡もっ♡イッたから♡♡ゆうやっ♡ひぅぅっ♡とめ、とめてッ♡♡」
「やっぱり朝一番のセックスは気持ち良いよな〜♡♡」
俺は一ヶ月前から山田の家で暮らす様になった。付き合ってすぐに〝一緒に住もう〟なんて言われていたが本当にその通りになってしまった。平日は学校と家、土日は家か別荘で今迄以上にケツを差し出していて、洗浄のし過ぎと孔の酷使でそろそろケツが壊れるかもしれない。
勿論最初は何度も拒否したが、山田のセックスを求める頻度が増え、俺はそのうち山田家に泊まって学校へ登校する日々。飯も風呂も山田の家で済ませ、自宅へは着替えを取りに帰る程度になった。何度も家に住めと言われ、断る事が面倒臭くなった俺はそれを受け入れた。
父親も母親も弟に夢中で俺には全く関心がない。日頃から素行が良くない俺の事は放任主義で、今更家に帰らない日が続いても気にされないので、別に住んでも問題はないだろう。
「よし、んじゃお前の親に挨拶しとかないと」
「はぁっ? いらねーよ! お前、何て言う気だよ。性奴隷にしたいから一緒に住むとか言うのか?」
「バカかお前は。性奴隷なんて単語出したら流石におかしいだろ。上手く言ってやるから親が居る日確認とれ」
俺は何も言わず、そのまま山田の家に〝泊まる〟感覚でいたから、二人の前で改まって何を言えば良いのかわからない。唐突に「同級生の家で暮らす」なんて不自然すぎる。
住む事を決めた週の日曜日、山田は菓子を持って意気揚々とした顔で俺の家に来た。
因みに親には家に居る時間を聞いただけで、誰が来るとかは何も伝えていない。リビングで寛いでいた両親と弟に「友達が挨拶したいって」と声を掛けてリビングへ山田を通した。
「初めまして、山田悠矢と申します」
お前は誰だ? と言うくらい余所行きの対応をする山田に隣に居た俺の口があんぐりと開く。両親は突然の客人に戸惑いながらも、こんにちはと軽く会釈をした。
「すみません、今日は莉玖君のご両親に許可を頂きたい事がありまして…」
山田はポケットから銀の名刺ケースを取り出し、両親に自分の名刺をスムーズに差し出した。高校生なのに名刺がある事が信じられないが、セレブの集まるパーティーとかで使うらしい。山田の家は世界中に高級ホテルを持つ超金持ちなので、うちの両親は名刺を見て「えっ?」と大きな声を上げた。
「いやぁこれは凄い。山田グループのご子息ですか。未来のホテル王になる方ですね」
「はは、僕みたいな気楽な学生が本当になれるのか不安ですよ」
山田が『僕』という言葉を使っている事に笑いそうになったが、義父は気にする事なく山田と楽しそうに世間話をしている。山田の巧みな話術でうちの親は彼の話に聴き入っている。
「え…? 莉玖を…?」
「はい、是非とも将来我がグループに入社して欲しいと父も申しております」
「確かに莉玖は学力はそれなりにありますが、今はロクに学校も行ってませんよ?」
「いえ、最近はちゃんと登校してますし、父は西園寺君の頭の回転の良さを気に入っています。彼には可能性を感じるので、良ければ我がグループの特別カリキュラムを今から受けさせたいと。しかしカリキュラムは拘束時間が長いので、それならば我が家で一緒に住んだ方が早いのでは、という話になったんですが…」
よくもまぁそんなにスラスラと嘘が言えるもんだと感心する。山田の言葉に義父と母親は「あの山田グループに!?」と驚愕していた。
まぁ、そうだろう。ヤンキーのろくでなし息子が、世界的にも有名な大企業へ入社が決まったのだから。だが実際は性奴隷に決まっただけだ。
両親は「ぜひよろしくお願いします」と上機嫌で、疑いすらしなかった。俺からしたら〝特別カリキュラム〟の為に一緒に住むなんて怪しさしかない。
「莉玖、やるじゃない。さすが私の子ね」
母親の言葉に俺の顔が少し歪む。何が〝私の子〟だ。小さい頃散々殴った癖に。男に夢中で、俺の事など要らなかった癖に。
今にも母親に噛みつきそうな俺を察したのか、山田は「じゃあ今日からという事で宜しいですか?」と話を切り上げた。
ソファから立ち上がって先に纏めておいた荷物を取ろうとすると、小さな手が俺の手を取った。
「にいちゃん、いなくなっちゃうの?」
種違いの弟の隼 は哀しそうな顔で俺を覗き込む。この家で気を許していたのは四歳の隼だけだ。隼にあまり会えなくなるのは少し寂しいが、この家には新しい家族三人だけの方が良い。母親もおっさんも、隼には激甘だから。
ふと、自分の子供の頃に金があれば俺も母親から愛を受ける事が出来たのか、なんて柄にもない事を考える。若くして俺を産んで、父親と離婚して一人で育てていかなければならなかった環境が俺への暴力へと繋がったのか。
まぁ原因が何であれ、俺はあの時の痛みと寂しさを一生忘れない。
「隼、たまには帰るから。今度は二人で前言ってたパフェ食いにいこうな」
「やだっ! にいちゃんいないのやだっ! いつもかえってこないのに、もっとかえってこなくなるんだろ!? そんなのやだっ!」
隼はグスグスと泣き出してしまった。思ったよりも懐かれていた事に少し面食らいながらも、嬉しくて思わず笑みが溢れてしまった。
「……同じ市内だから大丈夫だって。ほら泣くな。日曜日は兄ちゃんとパフェ、約束な?」
小指を差し出すと、隼は泣きながらも自分の小指を絡めてくれた。耳馴染んだあのフレーズが自然に口から出て小指を離すと、隼は「ぜったいね!」と念押ししてようやく納得してくれた。
「お前、弟にはあんな顔するんだ?」
家に向かう車の中で、山田はニヤニヤして俺を見る。
「はぁ? あんな顔って何だよ」
「優しい顔。しかもゆびきりげんまんとか」
「るっせぇな…」
「ゆーびきーりげーんまん♡ぶははっ! 莉玖可愛い〜♡」
「るっせぇな!!」
「俺ともパフェ約束してよ♡おに〜ちゃん?♡」
「黙れよクソがッ!!」
その日の夜は兄弟プレイを強要された。因みに山田が弟役だ。俺はその弟に嵌められる兄役。
俺と隼を見て考えついたのなら、本当にクソムカつく。
「弟にちんぽ嵌められるの気持ちいい? おに〜ちゃん♡♡」
「はぁっ♡♡はぐぅっっ♡きもちいっ♡♡はひっ♡むりぃぃ♡」
だが俺の身体はまた感じてしまい、結局その日も〝弟〟の前で醜態を晒してしまった。
ぐったりとする俺に抱きついて、山田は「これからはもっとセックス出来るな♡」と上機嫌で、これから先もこんな生活が続くのかと一気に気が重くなった。
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