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第二章 愛に怯える狼 2

 どうして山田が俺をこんなに好きなのか、未だに理解が出来ない。でもきっと金持ちの暇潰しなんだろう。大企業の将来の社長様が、俺みたいな男をずっと側に置いておく訳がない。  俺は簡単に捨てられる玩具。いや、性奴隷。  そもそもあの写真や動画が消えれば、俺はこんな暇潰しに付き合わなくて済むのに。だが抜かりない山田の事だ。きっとコピーは大量にされているだろうし、何よりも腕力で全く敵わない。俺だってそこそこ喧嘩をしてきたが、あいつの前では完全に赤子同然だ。  自室の机で溜息を吐いていると、ドアからノックの音が響いた。カチャリとドアが開くと、山田にいつも付いている使用人の如月(きさらぎ)が入ってきた。俺より10センチ高い187センチの美形で、仕事中は寡黙。最初は取っつきにくい奴だと思っていたが、俺と二人きりの時はいつも笑顔で何かと喋りかけてくる。使用人の中で唯一俺と会話が続く男だ。 「莉玖様、悠矢様が部屋に来るようにと」 「……もう寝るつっといて」 「悠矢様は納得しないと思いますが。今日も莉玖様とのセックスをご所望されていますよ」 「るっせぇな…俺はしたくねぇし、寝るんだよ」 「もう悠矢様とのセックスに飽きてきましたか?」  如月はどこか嬉しそうに笑っている。飽きる事が出来たらどれだけ良いだろう。  俺はそのままベッドへぼふっと寝転び無視を決め込むと、「じゃあ今日は私とやりますか?」と如月は長い脚をベッドへ片方乗せ、俺の頬に手を添えた。こいつはいつもこの冗談を言ってくるが、全く面白くない。 「意外に動揺しないんですね。キスしても変わりませんか?」  ゆっくりと近づく如月の顔。短めの髪の毛についた整髪料の香りがほんのり香る。 「……スーツ姿だから勤務中だろ、は。早く御主人様に俺の返事伝えて来いよ」 「おや、残念。ようやく貴方を抱けるチャンスだと思ったのに」  どうせいつもの冗談の癖に。俺は如月の言葉に呆れて溜息を吐いた。 「山田に殺されても良いなら抱けば」 「ふふっ。それは怖いですね。それでは莉玖様は寝てるとお伝えしてきます。あ、そうそうアッシュグレーの髪色、金髪の時より素敵です。莉玖様の綺麗なお顔立ちによくお似合いです」  如月は薄く笑ったまま部屋を後にした。二十八のおっさんが高二の男の髪色をわざわざ褒めなくていいのに。  (……山田の奴すぐ来るだろうな。とりあえず寝たフリしとくか。しかし何でこの部屋鍵ついてねーんだ? 性奴隷にはプライベートもないのかよ)  天蓋がついてるキングサイズのベッドへと俺は潜り込み目を瞑った。このベッドには未だに慣れない。どこのリゾートホテルだよ。  俺に用意された、だだっ広い洋室。ここだけで二十畳はある。ゲストルームらしいが、広すぎて初めて部屋に通された時は顔が引き攣った。バスタブとトイレ、簡単なキッチンも完備されている為、ウィークリーマンションの様にこの部屋だけで完結できる事がありがたいが、食事は強制的に山田と一緒に取らされるので意味はない。風呂も一緒に入りたいと言われているが俺が却下している。折角の湯船に白い塊を浮き上がらせたくない。  暫くするとドアが勢いよく開き、山田本人が俺の部屋に乗り込んできたのがわかった。  ベッドに横になっている俺はドアを見ずに、そのまま寝ているフリをする。 「莉玖〜♡寝てねーだろ? ん? まだ今日セックスしてねーじゃん。今日はお前の部屋でする?」  山田はシルクのガウンのまま俺のベッドへと潜り込む。寝ながら背後から抱きしめられ、頸に彼の顔が埋められる。すーはーと彼の呼吸が肌にあたって擽ったいが身体が揺れない様に耐えた。  「あれ、本当に寝てる?」と顔を掴まれ優しくキスをされ、衣服越しに胸の硬く勃った部分を摩られた。寝間着のシルクの素材がその尖りに優しく伝わり、耐えていた身体が堪らず揺れた。 「ほら、寝てない。何で寝たフリしてるんだ?」 「お前なぁ、マジでこの二ヶ月ケツの穴に突っ込んでばっかりだろーが…たまには休ませろ。学校でも家でも…よく飽きねぇよな…」 「寧ろ飽きたい」 「早く飽きろ」 「大体お前の身体が日々感度良くなってくるから仕方ねーじゃん。な、莉玖…ヤろ…」 「んんっ…耳やめろ…」  山田に耳や首を舐められると身体が自分の思い通りにならない。まるで躾けられた犬の様に、身体が山田の言葉に反応してしまう。  こいつが俺の身体を求めて荒くなる息、触れ合う肌の感触、優しい言葉。奥の方からよく分からないものが熱を帯び、俺の身体は奴の身体を受け入れる体制に変化していく。  力の強い雄の鉄の様な杭が、己の身体に打ち込まれるのを待ち望んでしまう。 「あっ…やめろ…んんっ♡」 「シャンプーの匂い…俺これすげー好き…もっと嗅ぎたい…」 「んんっ…♡ん…♡バカかッ…ンなの自分の髪の毛嗅いで…ん…ん…♡あ〜…胸を触んな…女じゃねぇぞ、クソ…」 「やっぱり髪の色これにして良かったな…似合ってる…でもあの女達がうぜぇな…莉玖の良さに今更気付いても遅いんだよ」  髪が伸びて根元の黒い新生部が見えてきた俺を、山田は無理矢理美容室に連れて行き彼好みの髪型と髪色にさせられた。金髪も元々仲間が勝手にブリーチしていたただけで、俺自身は別に何色でも良いが、このツーブロックとか言う髪型にしてから学校で女が寄ってきて煩い。  俺はワックスを付けるという事が苦手なのでスタイリングは毎日山田がやってくれる。 「あ…♡やめろ…」 「それに莉玖は俺のモンなのに、アホな女達だよなぁ…やっぱり女より断然莉玖の方が綺麗で可愛い…」 「んぅ…ッ…♡」  山田のセックスは最初こそレイプだったが、それ以降はアメリカの菓子みたいに甘い。甘過ぎて歯が溶けそうだ。たまに頭を掴まれたり、激しく揺さぶられる事はあるがそれは俺が無意識にそうして欲しいと口に出しているからだ。  そんな事言う訳ねぇだろ、と最初は信じなかったが、ボイスレコーダーで実際に聞かされ俺は三日程寝込んだ。それから俺は余計この男に逆らい辛くなってしまった。 「おい、ちゃんと舌出せ…またウォッカ無理矢理飲ませるぞ…」  その言葉に以前ウォッカでベロベロにされた記憶が蘇り、必死に舌を絡める。以前飲まされた時、呂律も脳味噌も上手く働かなくてバイブで散々責められた。それからもうこいつとセックスする際に酒を飲むのは懲りた。 「ん…んぅぅ…はぁっ…はぁっ…」 「お前は涎垂らしてても可愛いな…ほら、口開けてもっと舌出せ…」  その通り舌を出すと唾液の塊を山田に落とされ、俺がそれを飲み込むと山田は嬉しそうにまた唇を重ねた。他人の唾液を飲み込むなんて有り得ないのに、山田にされると何故か身体がゾクゾクとする。 「ふはっ…莉玖のちんぽ…もうガチガチ…俺の涎飲んで興奮してんの?」 「ちが……ん…ンンッ♡」  山田は焦らす様に内腿や陰茎の周りを舐め回す。早く舐めて欲しいところを敢えて外してくる事がもどかしくて、俺の吐息だけが荒くなった。 「ひぅ…♡…ッ♡」 「ちんぽピクピクしてるぞ…どうした?」 「…も、はやく…」 「ん? 何て? ちゃんと言えよ」 「ちんぽ…早く舐めろよぉ…」 「顔真っ赤にしてかーわい…ちゃんとお願いして?」 「お、おれのちんぽ…いっぱいなめてくださぃぃ…」  その言葉を聞くと山田は満面の笑みを浮かべて、わざと音を立てて舐め始めた。舐めながら「美味しい」を連呼され俺の羞恥心が刺激される。美味しい訳がないのにそう言って舐められると余計に股間が熱く疼いた。  れろれろれろ…♡ちゅぱっ♡ちゅぱっ♡れろぉ〜…♡ 「ひぅ…♡んんぅ…♡」  山田の舌がゆっくりと竿を舐めるだけで身体が動く。愛おしそうにキスしたり、ゆっくり舌を這わせたり。俺が身体をくねらせるのを確認して嬉しそうに笑いやがる。 「莉玖のちんぽ美味し…俺の舐め方好き?」 「るっせぇ…あ…ひっ♡…」  山田が俺の股間に深く顔を埋めると、奴の絹糸の様な黒い髪の毛が俺の内腿に当たる。  学校では二年生にして生徒会長を務め、勉強もスポーツもトップの男。そいつが俺みたいな落ちこぼれの陰茎を舐めている光景。どうしてお前は嬉しそうに俺の物を咥えているんだ?  気づけば彼の陰茎を尻に突っ込まれ、今日も自ら腰を動かす。「好き」「可愛い」「愛してる」普段聞けば鬱陶しいだけの言葉が、セックスの時だけは受け入れられる。  誰にも必要とされて来なかった俺が、こいつだけは求めてくれる。  ‪──自分が誰かに求めて欲しかったなんて、そんな事に気づきたくなかった。だっていつかはこいつは俺を捨ててしまうのだから。 「莉玖…いつもみたいにお願いしろよ…早く…」 「あっ♡あっ♡ゆうやのおちんぽみるくっ♡おれのけつまんこにそそいでくださぃぃぃ♡♡」 「じゃあ自分で片脚持て…いっぱい注いでやる…」  横向きになった俺が片方の膝裏を抱えて上げると、背後からズンッと硬くて熱い杭が打ち込まれる。その杭は速さを増して、俺の内壁を何度も擦っていく。 「ゆうやッ♡はげし…もっむりっ♡♡ひぐぅぅっ♡」 「こら逃げんな。ケツまんこにいっぱい注いで欲しいんだろ。ほら、どうだ?」  何回か早く擦られて、時折最奥を掻き回す。そのタイミングが絶妙で俺は喘ぎ声しか出せない。 「ああああ♡♡♡♡はひっ♡あっ♡あっ♡そんなずぼずぼすんなぁぁ♡♡ひゃぅっ♡ちくびッ♡」  山田の手が俺の胸の尖りをぎゅうっと摘む。身体が反応して孔が収縮すると、彼の陰茎の硬さを感じて思わず背中を仰け反らせた。 「っぁ…すっげ…締まる…気持ちい〜…」 「ぁぁあぁぁあぁ♡……ゆうやぁ♡」 「ん〜…莉玖可愛い……その顔見せろ…」  顔を彼の方へ向く様に促され、振り向いたと同時に唇を貪られた。 「んぅ♡んぅぅ♡」  いつか捨てられるのがわかっているのなら、甘い言葉を真に受けない。俺がこいつにしがみついて腰を振るのは気持ち良いからであり、好きとかいう感情ではない。  終わった後に俺にしがみついたこいつを突き放さないのも、身体を抱き締めてしまうのも、ただそれが気持ち良いから。  人を好きになるという事が、具体的に何を示すのか分からない。  朝目を覚ますと山田が俺を抱き締めて寝ている。これはいつもの光景。俺はそれを引き剥がして全裸のまま浴室へ向かう。  鏡を見ると昨日山田から付けられたキスマークの痕が夥しくついている。あの日から毎日付けられる痕。いつかこれが消える日が来る。  ‪──いつか来るその日。俺はそれを〝寂しい〟と思うのだろうか。

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