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第三章 狼は愛を乞う 2
ギシギシと軋んだ音が鳴る長い廊下を歩くと、この屋敷で一番眺めの良い部屋に辿り着く。中からは男の喘ぎ声が途切れ途切れに聴こえてきて、その鳴くような声に俺の身体が疼き出す。
襖を開けると、畳の部屋の正面に瑠璃光院の様に日本庭園の緑が鮮やかに広がっている。それを背景に尻にバイブを挿れ、目隠しをされた莉玖の姿。背景は晴れているのに、屋敷の作りで部屋の中は薄暗い。ああ、何て美しいんだろう。まるで絵画の様だ。
莉玖に近づいてみたが、彼は小さく悶えたままで俺の気配に全く気づいてない。
孔にはみっちりとバイブが埋まっていて、孔の縁でぐねりぐねりと刺激している。五日ぶりの莉玖の乱れる姿に思わずうっとりとした。
「もうそろそろバイブ、抜きましょうか」
背後から聴こえる如月の声。「どのぐらい挿れてるんだ?」と訊くと三十分程はこの状態にしている様だ。
莉玖は昨日やっとドライオーガズムで達したが、射精を何回もして、前立腺を執拗に責めないとやはり難しく、今日まで何回も攻められた所為か、莉玖はかなり疲れている。あまりやり過ぎても可哀想だから、今日は普通にセックスするか。
「いやぁ、莉玖様は中々筋が良くて、私も久々に張り切ってしまいました」
如月のこんな満足そうな顔は久々だ。心なしか肌もツヤツヤして見える。まぁ露天風呂は温泉だからその効能かもしれないが。
「……お前、莉玖とヤってないよな?」
「ノーコメントです」
「お前まさかちんぽ突っ込んでねぇだろうなっ!?」
「悠矢様とのセックスが嫌だって言うから上書きしようと思っただけですよ」
「挿れたら殺すつったろ!」
思わず如月の襟元を掴んでガクガクと揺さぶる。やはりこいつを信用するんじゃなかった。苛々して身体中の血液が沸騰する。
「ああ、でも莉玖様はちゃんと嫌がりましたから怒らないであげて下さい」
「嫌がる莉玖に無理矢理ハめたのかよっ?」
「貴方も最初は莉玖様に無理矢理したでしょう? 何が違うんです?」
如月は冷静に俺の手を襟元から引き剥がした。
「それは認めるけど…でもお前がこの状況でハめんのはおかしいだろ! 挿れない条件だったろーが! まさか中出しとかしてねぇだろうなっ!?」
「初日だけちょっと想定外でしたので。病気はないので安心して下さい」
「お前何してくれてんだよッ!? ふざけんな!!」
「まぁまぁ、そんな怒らないで下さい。挿れたおかげで、やっと自覚してくれましたよ」
〝自覚〟それって、つまり──……。
「悠矢様が好きだって言葉にしてくれました」
沸騰していた血液が一瞬で蒸発して、少し立ち眩みがした。俺の陰茎だけが好きと言っていたあの莉玖が、俺を好きだって? ああ、早く莉玖の可愛い口から実際に聞きたい。
「お前…もう離れの屋敷に行ってろ。夕食まで誰も入れんな」
「あれ? 私を交えて3Pしないんですか?」
「あれ? じゃねぇよ! する訳ねーだろ! 俺と莉玖二人だけに決まってんだろ!」
「そんなに独り占めしたいんですか? 高校生の可愛いネコなんてあまりお目にかかれないんですから、私にも少しおこぼれを下さいよ…」
如月は溜息を吐いて、目に見えて残念そうだ。普段ならこんなに食い下がる事なんかないのに、余程莉玖がお気に入りらしい。
「おい如月…お前、結局何回ヤッた…」
笑顔の如月は無言で両手で八本の指を立てた。単純に一日二回以上している。今すぐ殴りたい。返り討ちに遭うからやらないが。せめてもの仕返しとして、夕食は如月の嫌いなピーマンを使った料理にしてもらおう。
「莉玖様、よく我慢しましたね」
拉致された様に寝転んでいる莉玖の前に、如月がしゃがみこんで腕を縛っているタオルを解く。
「あぅ…とうま…ぬけよぉ…はやく…」
「腕のタオル、ほどきましたよ…おっと…」
莉玖は如月に抱きついて「とうま、はやく…」と懇願する。その光景に俺の顔が歪んだのは言うまでもない。そもそも「斗真」と名前で呼ばせている事が気にくわない。如月の奴、散々莉玖で楽しみやがったな。
「如月、退け。なーにちゃっかり抱き締めてんだよ」
「莉玖様が甘えるから仕方無いです。ああ、本来ならあと二日間莉玖様と過ごせたのに。連絡しなければ良かったなぁ。莉玖様も私と離れるの寂しいですよね?」
「あぅ…ぅ…もぉバイブいやだ…」
「二日連続で亀頭バイブと乳首ローターで同時責めしたから今日は少しお疲れですね。んー可愛いなぁ…離したくない…」
「如月ッッ!! 退けつってんだろーが!!」
全く離れない如月を莉玖から引き剥がして、無理矢理俺の方へ抱きつかせた。ああ、五日ぶりの匂い。ぎゅうっと抱きしめると、莉玖の口から「ゆうや…?」と声が漏れた。
目隠しをしたままで俺の感触がわかった莉玖に、俺の顔はにやけが止まらない。如月を部屋から出る様に促し、ようやく二人きりになる。
莉玖の孔からバイブをゆっくり引き抜いてやると「ひぃン…♡」と嬌声が上がった。
「莉玖…俺と離れて寂しかった?」
目隠しを取ると、莉玖の綺麗な目は泣いた痕があって痛々しい。
「何でここに…」
「なぁ、莉玖…俺以外のちんぽ気持ち良かった? 俺から逃げて他の男のちんぽ挿れたかったのか?」
莉玖は少し怯えた顔になる。その顔すら、俺の加虐心を刺激してしまう。
「おい…訊いてんだろ…俺以外とセックスしたら殺すつったよなぁ? 如月のちんぽハめて貰ったんだろ? 俺とどっちが良い?」
顎を掴んでもう一度問い質すと、莉玖は唇を震わせながら「ゆうやがいい…」と声を絞り出した。
「何て? 聞こえねぇよ」
「ゆうやのちんぽがいぃ…」
「じゃあ俺に今からどうして欲しい?」
「……お、おれを…」
莉玖の声は震えて、言葉が上手く続かない様だ。だけど俺はそんなお前から俺のモノを挿れてくれと早く言われたい。唇を親指でなぞり「お前を?」と莉玖を促した。
「一生…捨てないでくれ……」
「え?」
思っても見なかった言葉に、俺の身体が固まる。てっきりちんぽハめて下さいとかそういう事を言うと思ってたのに……。
固まって反応出来ない俺に、莉玖は必死にしがみつく。まるで子供の様な行動をする彼に、俺は戸惑うばかりだ。
「俺の事…捨てんな…頼むから…一生離さないでくれ…」
「え? ちょ…莉玖…どうしたんだよ…」
「捨てるなら…優しくすんな…あの女とずっとセックスしてろよボケ…結婚相手もいる癖に…クソボケ…人の事、暇潰しに使うな…」
「……お前もしかして、あの女に嫉妬してたのか?」
あの日、俺が女とセックスしようとしてた事にムカついて腹が痛いと嘘を吐いたとしたら、可愛いすぎて倒れそうだ。
「ンなのわかんねぇよ…でも俺以外とヤッてるお前はキライなんだよ……」
俺の首元にぐりぐりと顔を埋める莉玖。身体中から愛しさが込み上げて胸の中心がぎゅうっと痛くて苦しい。
込み上げた愛しさはそのまま暴走して、莉玖を布団に押し倒し、激しく唇を貪った。
「んぅ…ぅぅ…」
「はぁっ…はぁっ…莉玖…安心しろ…一生愛し倒してやる…男同士とか関係ねぇ……」
「あっ…ぁぁ…悠矢…」
暇潰しなんかじゃない。お前の事を考えたら忙しすぎて、頭がおかしくなりそうだ。いや、お前の顔を初めて見たあの日から、きっと既におかしくなっているんだ。
身体だけじゃ、足りない。お前の心も全部欲しい。
「お前は、まだ俺のちんぽだけが好き?」
「お、れも…好き…悠矢の事…ぜんぶ、欲しい…」
「ん…お前になら、何だってくれてやる…莉玖…」
孤独な狼、お前に愛を雨の様に浴びせてやる。
だからもう、何処にも行かせない。お前は俺に愛される為に生まれてきたのだから──。
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