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第三章 狼は愛を乞う 4

 翌朝、如月の声で眼が覚める。視界に入るのはいつもと違う天井。そうだ、昨日は昼にこの別荘へ来て、食事を挟んで莉玖と何回もセックスをしたんだった。  寝転んだまま隣を見ると、全裸の莉玖はぐしゃぐしゃになった布団の上で、枕を抱いて気持ち良さそうに寝ていた。彼の奥にある縁側の外は眩しくて、樹々に反射する光に思わず目を細めた。 「莉玖様、朝ですよ。そろそろ起きましょう」  如月が莉玖に近づいて、滑滑とした彼の頬に手を添えた。 「勝手に触んな! 莉玖の裸も見るな!」  俺は如月の手を払い除けて、莉玖の身体を抱きしめ死守する。 「裸ぐらいいいじゃないですか」 「ダメだっ! お前はもう信用してねーからな!」 「わかりましたよ。でもここだけチェックさせて下さい」  大きな如月の手が莉玖の膝裏をぐいっと押し上げると、寝ている彼の脚は簡単に開き、窄まった孔は如月に丸見えだ。そんな所を開かせるなんて想定外で、俺は如月の行為に焦る。  如月の視線は、じっくりと莉玖の孔を観察している。 「如月ッ何やってんだ!? 莉玖のンなとこ見るな!」 「悠矢様、暫く莉玖様とのセックスは控えて下さい。赤く腫れてますから、多分挿入すると痛みが走ると思います」  真剣なトーンの如月に、俺の勢いも「そんなにやばいの?」と、トーンダウンする。昨日お昼から寝るまで何回しました? と訊かれたが、正直覚えていない。六回は確実にしたが、それ以上は記憶があまりない。  如月に伝えると、彼は孔を凝視したまま少し考え込んだ。考える前に莉玖の脚を離して欲しい。  俺も上体を起こして莉玖の孔を覗き込むと、確かにいつもより赤くなって皮膚が盛り上がっている様に見える。もしかして、後半は痛いのを我慢して行為に付き合ってくれていたのかと思うと、胸が痛む。 「やり過ぎです。莉玖様の身体の事、もっと考えてあげて下さいよ」  如月は呆れ顔で溜息を吐いた。まるで俺が莉玖の事を考えていない様な言い方に流石に顔を顰める。可愛くてしょうがないから、抱きたくなるのは当たり前だろうが。確かに莉玖には悪いと思っている、だけど… 「散々莉玖で遊んだお前に言われたくねーよ! 五日ぶりだからこっちは十回分は溜まってたんだよ!」 「莉玖様で遊んだつもりはありません。ちゃんと彼の状態を把握して気持ち良くしましたよ」 「俺だってちゃんと見てたし…莉玖は気持ち良いって言ってた…」 「莉玖様は最終的にそう言うんですよ。だから此方が自制してあげないと。感じやすいから攻めたくなるのはわかりますが…」  最後の一言に、俺が居ない間の情事を思い浮かべているのが伝わってムカつく。 「とにかく向こうに戻ったら病院に連れて行きます。射精させすぎると不能になるからキスも禁止です。お二人はキスだけじゃ止まらないので」 「キスも? ……治るまでどのくらいかかる?」 「一週間は確実ですね。まぁ二週間で大丈夫ですよ。我慢して下さいね」 「お前も絶対手を出すなよ…」 「私は無理になんかしません。セックスは気持ち良くやるものです。本当に痛い思いをさせてやるものじゃないんですよ。まぁ、無理矢理する悠矢様にはわからないと思いますが」 「……如月もバイブとか突っ込んでたじゃねぇかよ」 「私は悠矢様と違って、殴ったりレイプまがいな事なんてしてません」  その言葉に何も言えなくなる。  確かに最初の時、莉玖の痛みはとてつもなかったと思う。突発的に襲った為、ローションなんて用意出来なかった。唾液のみで窄まった孔へ捩じ込むと、莉玖は悲鳴を上げた。暫くは暴れていたが、頭を掴んで腰を何回も動かすと諦めた様に大人しくなった。 「あ…あ…やめ、ろ……」 「あ〜…キッツ……西園寺のケツすげー気持ち良い…やっべぇ…男の孔ってこんな締まんのかよ…」 「痛てぇ…抜けよぉ…あ、あ……」 「……悪いけど写真撮らせてもらう。お前は俺の恋人決定だから」 「い、みわかんねぇ…いっ…てぇ…」  スマホを起動させ、バックから突いてる姿と、正常位で顔がよく見える姿の動画と写真を撮った。最初に殴って出た鼻血が固まっていても、莉玖の顔は美しかった。シャツとネクタイだけで俺の陰茎を捻じ込まれている姿も扇情的で、俺の腰は止まらなかった。初めて男の身体に欲情している事に自分でも戸惑っていた。 「あ…ひぃ…はぁっ…はぁっ…いてぇよぉ…」  女の膣と違って粘液が出ない男の孔。唾液を沢山つけて挿入しても、すぐに乾いてしまう。これでは中々イケない。部屋を見渡したが、ネットがはみ出た段ボールが二つあるだけで、今はほぼ使われていない部室に、ローションの代わりになる様な物はなかった。  さっき休み時間にした女は簡単に濡れたのに、やはり男と突発的にセックスをするのは難しい。濡れない孔を傷つけない様にゆっくりと腰を動かしながら、さっきの女と目の前の男を脳内で比べる。  女と豊かな胸と比べて平坦な胸。だが、その平らな地でぷくりと主張する桜色の尖り。身体を捩らず度に浮かび上がる硬い腹筋。  今迄ならぴくりともしなかったパーツに、何故か陰茎は簡単に反応する。さっきの女より、断然コイツの身体の方が気持ち良い。 「あ…ハンドクリームって使えるんじゃねーの…」  自分のポケットを弄ると、さっきセックスした女がノリでくれた試供品のハンドクリーム。こんな安物を俺が使う訳がないと思っていたが、貰っておくもんだ。 「西園寺、これで滑り良くなる筈だから、女みたいにイけよ」  ぶちゅっとクリームを大量に孔と陰茎に塗り付ける。ぬるんっと滑る感触とぎゅうぎゅうに締め付ける孔。前後に擦る度に、陰茎に内壁が当たって陰嚢の奥から熱いものが込み上げてくる。 「う、わ…やっべぇ…全然違う…」 「あっ…あっ…あっ…」  莉玖は目を瞑っていたが、明らかにさっきよりも感じている様に見えた。細いながらも筋肉がついた鍛えられた彼の腰を掴んで、さっきよりも腰の律動を早めた。二人の吐息がどんどん荒くなり、彼を抱きしめて激しく唇を貪る。 「んぅ…はぁっ…」 「西園寺もしかしてキスした事ねぇの? 下手クソ。舌もっと絡めろよ…早く」 「ざけんな…誰がするか…ッ…ホモ野郎…」 「……誰がホモだって?」 「テメーだよ…男のケツに挿れやがって…」  俺は上体を起こし、莉玖の頬を右の拳で殴った。殴られた刺激なのか、ぎゅうっとよりキツく締まる淫肉。陰茎に絡み付くその刺激でさっきより速く腰を動かし、上から莉玖の姿を見下ろした。 「う、ぁぁ…いってぇ…クソ…やめ、ろ…」  莉玖の頭を掴んで、無理矢理自分の前まで持って行く。 「痛いの嫌だろ?だったら舌出せ。じゃねーと血が出るまで動かすぞ」 「あ…ぅ…」  孔と頬、そして髪を引っ張られる痛さの所為か、彼は少し涙目でおずおずと舌を出した。 「はは…その顔すげーエロい…西園寺、最高…」  ‪──最低だ。俺は二ヶ月前の事を一気に思い出して、目を覆いたくなった。だけどあの時の莉玖の怯える顔は最高に興奮して、何回もあの時の動画を再生して自慰をした。  あれから無理矢理彼を呼び出し、抱き潰して自分の家に住まわせ、今はセックスのしすぎで彼の身体を傷つける有様。  (……俺って何か、酷い奴なのでは…) 「悠矢様、いい加減莉玖様を離してあげて下さい。いつまで全裸なんですか。風邪をひいてしまいますよ」 「……なぁ、如月。俺って、莉玖に最低な事してる?」 「何を今更。最低なんて言葉じゃ足りませんよ。訴えられてもおかしくない事ばかりですよ。性的暴行、暴行、拉致監禁、脅迫、その他諸々。貴方が山田家の人間じゃなかったらとっくに犯罪者です」  改めて言葉にされるとキツイ。だけど今迄はそんなに酷い事をしている自覚はなかった。心の何処かで莉玖は本気で嫌がっていないと思っていたから。俺は愛を与えているつもりだったのだが、独り善がりにも程がある。 「昼過ぎにはここを出ますよ。今日の夜は穂乃果様との会食です。ペットの調教でプライベートを充実させるのも良いですが、山田家の人間としての職務も全うして下さい」 「ペット…?」 「莉玖様の事です」 「俺はペットだなんて思ってねぇよ」 「わかってますよ。でも、私からすれば貴方の可愛がり方はペットと同じです。恋人と言うなら、それ相応の扱いを莉玖様にしてあげて下さい。あまりに酷いと、貴方のペットを私が頂きますよ」  如月の言葉に、また反論できなかった。  確かに莉玖とは毎日セックスしかしていない。しかし、愛を伝えるってどうすれば良いんだ? 俺はセックスが愛を伝える手段だと思っていたのに、これから二週間我慢しなくてはならない。  (今迄だったら、俺がヤリたい時にって感じだったけど…あんな可愛い莉玖が痛がるのは嫌だな…)  莉玖と出会ってから、知らなかった感情が奥底からマグマの様に噴き出してくる。愛を分かった様な気になっていたが、愛という感情はまだ底が知れない。  この愛は、マグマの様に爆発して、いつか莉玖を酷く傷つけてしまうのだろうか。  彼を傷つけたくないのに、触れば触るほど莉玖を傷つけていく。  好きになればなるほど、俺はどうすればいいのかわからない。ただ、離したくないだけなのに。 「ペットなんかじゃねぇよ…」  寝てる莉玖の頬を撫でると、彼は擽ったい様に眉を顰めた。その動きが可愛くて頬に軽くキスをしたが、莉玖はまだ目を覚まさない。  彼が今見ている夢が、如月じゃなくて俺であります様に。  そんな下らない事を考えてしまう自分に、嫌気が差す。  

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