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第五章 愛を忘れた狼 8

 記憶を失ってから約二週間と少し。相変わらず彼の記憶には変化なし。睡眠療法は継続していて、たまに記憶が混乱して頭が痛くなる時はある。精神的に気持ちを落ち着ける薬と、寝れない時に睡眠導入剤だけ飲ませているが、基本は楽しそうに生活している。  俺は今日も変わらず英語の問題集を解く日々だが、その中で変化した事がある‪──。 「やまだ、勉強おわった?」  部屋の扉が開いて、莉玖がもじもじとしながら俺を見つめる。勉強は全く終わってないが、正直に伝えれば彼は気を遣って部屋を出て行ってしまう。  蜘蛛の糸に自ら絡まってきた獲物を、みすみす取り逃がすなんて俺には出来ない。 「丁度今終わったとこ。どうした?」  どうした? なんて白々しく訊いたが、彼の言う台詞はわかっている。彼の口が俺が予想した言葉通りに動く。 「きょうもいっしょにねていい?」  いいよと返事をすると、莉玖は笑顔で俺のベッドへと潜り込む。持っていたシャーペンを離して、俺も一緒に潜り込んだ。 「なんで夕ごはんにいなかったの?」 「ああ、親父にちょっと呼び出されてよ。あんなオッサンとより、莉玖とメシ食いたかったな〜」 「おとうさん…いるんだ?」 「一応な…そういえばそろそろお前も母親に会いたいよな? ごめんな、会わせてやれなくて」 「んーん。今は、とうまとやまだのがすき。おかあさんこわいもん。だからへーき」 「そっか。でも、友達に会えないのは寂しいだろ?」  六歳だと小学一年生。だけど莉玖は友達はいないから寂しくないと答える。 「みんなおれのことバカにするから、きらい…。おんなじ服きてるっていわれるし…くやしくてたたいたらもう遊んでくれなくなった…」 「……そっか。でも今は俺と如月がいるから大丈夫だよな?」 「ん…いまはたのしい…でも、やまだの顔みると胸がぎゅーっていたい時がある」 「えっ? 痛い? い、今も痛い? 大丈夫か?」  痛くなる程、やはり俺が嫌いなのか? とオロオロする。六歳の莉玖にまた嫌われる日々は送りたくない。 「いたい…けど、ドキドキする…」  その言葉で、俺の頭の上にポンッと花が咲いた。あれ、それって好きって事では? さっき「すき」とは言われたのは、家族的な意味だと思っていたが、このドキドキって…考えを巡らせていると、莉玖が抱きついてきた。 「ぎゅーして。エアコンさむい」  前の莉玖だったら絶対言わない言葉。だけどそんな綺麗な顔で言われたら、勝手に身体が動く。 「ん…莉玖、ぎゅ〜〜ッ♡♡」 「ふふっ、おれもぎゅーッ」  雷の日以来、莉玖は俺の隣で寝てくれる様になった。自分にひっついてくれる事が嬉しくて、最近の俺の機嫌も良い。  犬みたいにじゃれついて来た彼は、横になってる俺の上に跨ってきた。 「やまだ、きょうもアレしてほしい…」  俺の股間に少し大きくなった彼のモノが擦り付けられ、少し恥ずかしそうにおねだりされた。彼の言うアレとは、手コキの事。  少し前の雷の日に俺がしてやった手コキを気に入った莉玖は、あれから毎日お願いしてくる。  俺は、彼の抑制されていた性欲を引き出してしまった様だ。 「えー? 今日も? どうしよっかな〜」  本当は手コキどころかその先もしたいくらいなのだが、こうやって焦らすと莉玖がもっとねだってきて可愛い。 「ん〜…じゃあ今日もおれの口たべていいから…」  早く手コキをして欲しい莉玖は、案の定俺の好きなキスを提案してきた。俺から言うと何かと問題がありそうだが、彼が自ら提案してきたのだからありがたくそれを頂く。 「本当? じゃあいいよ…莉玖の口ちょうだい…」  舌を出した俺に莉玖が顔を近づけて、彼の舌が絡む。チロチロと舌を動かすと、一生懸命俺の舌を追ってくる。愛しいという名の種が一瞬で弾けて、俺の身体中に蔦が伸びる。全身で彼が欲しくなって、彼を引き寄せて唇とその口内を貪った。 「ん…っはぁっ…はぁっ…やまだ、くるし…」 「莉玖、まだ食べ終わってないぞ…アレしてほしいんだろ?」 「うん…んぅ〜…ん、んはぁっ…ちんちん…またへん…」 「ん〜ッ♡可愛い〜♡」  ちゅぱっと名残惜しく唇を吸うと、莉玖は蕩けた顔になっている。  胸の上で彼の下の衣服を引き下げると、精神が六歳とは思えない程に怒張した十六歳の陰茎。仄かな灯りが、先端の漏れでた汁に反射して煌めいている。  それをぺろ…と舐めとると「きたないよ…」と恥ずかしそうに顔を赤らめる莉玖。 「風呂入ったんだろ? 全然汚くない…俺、莉玖の身体は全部好き…ん、ん」  首を動かして彼の陰茎を咥えると、莉玖は刺激で身体をくねらせた。 「んん…ちんちん口にいれたら、もっときたない…」 「莉玖、舐めにくいから一回パンツ脱いで跨って。ちゃんと俺の口に入れろよ。今日は手コキじゃなくてフェラしてやる」 「ん…ふぇらって…?」 「口でやるって事。ほら、早く脱いで…」 「え…口……あ…あ〜〜…♡♡」  じゅぷ♡じゅぷ♡じゅぷ♡ちゅぱぁ…♡ 「あ〜…♡莉玖のちんぽ美味しい〜…」  俺の上に跨り、自ら陰茎を突き出している莉玖に興奮が止まらなくて、下から見上げて彼を味わう。すべすべとした臀部や太腿裏の肌の質感が気持ち良い。 「んんっ…♡はっ…♡んぁあぁ…♡」 「莉玖、声出しちゃダメだろ…如月に俺達の秘密バレたら、コレ出来なくなっちゃうぞ」 「それはダメ…コレきもちいいからやりたい…」 「だろ? だから口は自分の手で抑えような?」  莉玖は自分の両手で口を覆って、コクコクと頷いた。 「良い子だな…」  れろっ♡れろれろれろぉ♡ちゅっ♡ちゅっ♡じゅぷ…じゅぷっじゅぷっ♡ 「んぅ〜…みるく、でる…」 「俺の口の中に出して。おしっこみたいに…」 「あ〜…やまだ…きもちいぃ…でる…」  莉玖の身体が震えて、声を抑える仕種を下から見上げる。可愛くて可愛いくて、今すぐ自分の陰茎で彼の中を突き立てたくなる。  少しすると、何もわかっていない彼の欲望の塊が、液体になって俺の口の中に放出され、果てた後も全て綺麗に舐めとってやった。 「いっぱい出たな…気持ち良かったか?」 「ん…きもちよかった…やまだありがと…」  莉玖の記憶が戻って欲しいのに、全てが消えた記憶に、こうやって俺が再び増える事が嬉しくなってきた。  〝莉玖様は莉玖様ですよ〟  如月の言っていた意味が、段々とわかる様になってきた。  今の彼は西園寺莉玖になる前の莉玖。  母親から愛されたくて、捨てられない様に必死になっていた時期の彼だ。最初は怯えていたが、こっちが心を開いて敵意が無いことを示せば、こうして素直に甘えてくる。  出会った頃あんなに威嚇してきた狼は、きっと人に傷つけられる事が怖くて、先に人を遠ざけていたんだろう。 「やまだ、赤ずきんちゃんのオオカミみたい…」 「俺が狼…? 何だよそれ」 「優しく寝てるふりして、おれの事すぐたべるもん…きょうはちんちんと口たべた…」  その言葉に、頭の中で童話を思い返す。そういやお婆さんに扮した狼が、うまく騙して赤ずきんを食べる場面があったな。  莉玖の事を一匹狼だと出会った頃から思っていた俺にとって、まさか反対に自分がそう言われるとは晴天の霹靂だ。その意外さに思わずぶははっと笑ってしまった。 「そう言われると俺の方が狼だ。でも莉玖から食べて良いっていったろ? 悪い赤ずきんだな?」  彼の高い鼻をぐいっと摘んでやった。 「……おれ男だから、赤ずきんちゃんじゃないもん」  ちょっとムッとした顔が可愛い。 「……そうだなお前は男。でも可愛い♡ん〜♡莉玖♡寝る前にまたぎゅーしよ」 「ん…ぎゅー…ふふっ、やまだのちからつよーい」  今の莉玖が笑ってくれたらそれでいい。お前の記憶が戻らなくても、俺の近くにいれば良い。最近はそう思える様になってきた。だけどそうなったら、記憶のあった莉玖はどうなってしまうんだろう。  俺と三ヶ月過ごした莉玖には一生会えなくなってしまうんだろうか。  (莉玖はどっちも莉玖だけど、一方に会えなくなるのは…つらい)  結局俺は今日もどっちつかずで、莉玖を強く抱きしめて目を閉じた。  はっきりとしている事は、俺は彼を一生離さない。もう何があっても、こうやって彼を抱きしめられる距離にいたい。  ‪── お前の結婚はあの娘で変わりはない。そのペットを奪われたくなかったら、ちゃんとやれ。  今日親父に言われた言葉が頭を過ぎる。  ペットなんかじゃない、穂乃果との結婚も決定じゃない。誰も俺から莉玖を奪わせない。  そんな事を考えていると、抱きしめる力が強くなったのか莉玖は苦しそうな声を出した。俺が力を緩めると、不安になったのか莉玖からまた抱きついてきて、その仕草が可愛くて、この夜は何回も同じ事を繰り返した。

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