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第六章 狼達は愛に塗れる 6

「莉玖、ぎゅー」 「お前、何歳だよ…ぎゅーって…」 「いやいや、お前が言い出したんだからな?」 「だからそれは六歳の俺って奴だろ? 今普通に使うなよ!」 「しょーがねーだろ。お前が毎晩お強請りしてくるから。あー六歳の莉玖可愛かったなぁ〜」 「……悪かったな、可愛くない方の記憶が戻って」  莉玖は少し剥れた顔でベッドへと潜り込んだ。  記憶が六歳まで戻っていた事について、莉玖は最初半信半疑だったが、俺と如月が撮っていた動画によって「マジか…」と落ち込んでいた。今の自分の顔で、あの喋り方や仕草だった事は相当恥ずかしいらしい。 「ウソウソ、今も可愛い」 「可愛いって言われても嬉しくねぇって前から言ってんだろーが…クソが」  莉玖はあの日、松下から夕食の用意が出来たと言われ、階段を降りようとすると立ちくらみがしてそこから夢の中にいた。  それは彼が小さい頃に戻って俺たちと生活する夢。だけど詳しい事は殆ど覚えていない。覚えているのは、観覧車での会話くらい。 「夢の中で、お前がずっと一緒にいるとかぬかすから、なんかムカついて…どうせ夢だからぶちまけてやろうと思ったら、現実だったんだよ」 「ふーん…で、穂乃果と飯行くなって?」  莉玖が嫉妬してくれていた事に、俺はニヤニヤが止まらない。そう、ずっとこれを聞きたかったのだ。俺の事が好きすぎてなんて事が本当なら、嬉しくて地上から身体が浮いてしまう。 「るっせぇな…もう寝る…」 「なぁ…会食行く前につけた噛み跡…俺がお前の事思い出すようにって、本当か?」  俺に背中を向けた莉玖を、背後から優しく抱きしめる。耳をぺろっと舐めると、彼の身体がぴくりと揺れた。 「斗真の奴…バラしやがって…」 「お前…ンな可愛い事すんなよ。如月から聞いて倒れそうな程嬉しくなったわ…」 「……どうせお前はあのお嬢様と結婚しなきゃなんねーだろ。だから俺がそんな事いっても…」 「……結婚は破談にした」  少しの沈黙の後、莉玖は身体を俺へと向けた。 「破談って…お前…」 「穂乃果も納得してくれた。んで、親父にもお前の事ちゃんと言った。勘当されるかもしれねーけど…」 「何、言って…お前バカかよ!? あのお嬢様は会社にとって大事な取引先の娘なんだろ? どうすんだよ!? 俺の所為で…男だぞ、俺…」 「ずっと離さないし、捨てない。男同士なんて関係ないって、前に言っただろ」 「……お前…イカレてる…マジで…山田グループの社長になる奴が、男選ばねーだろ…」 「社長になるかどうかはわかんねーけど、どうなってもお前は選ぶ。それは決定…」  彼の綺麗な茶色の瞳が少しだけ涙で滲んでいる。お前と一生過ごす事がイカれてるっていうなら、俺は喜んでそのイカれた人生を選ぶ。   「莉玖…またつけてくれよ。お前の噛み痕。一生消えないくらいの痕、つけてくれ」 「一生って…何言ってんだ」 「一生残るくらいの痕なら、もし俺が記憶失くしてもすぐ思い出せる」 「……痛いつっても…やめてやんねぇぞ…」  莉玖はかぷりと俺の肩を一回甘噛みをした後、全力で歯をがぶっと肌に突き立てた。痛い、だけど嬉しい。お前の痕を残してもらうのが堪らなく嬉しくて、幸せだ。 「んーやっぱり血が出る程はつかねぇな」  もっと痕がつくぐらいがいいのに、これじゃまたすぐ消えそうだ。痕を見て不服そうな声を出す俺に、莉玖は「血が出る程とかやっぱイカれてる」と笑っている。 「莉玖の肩も、つけていいか? 血が出る程は噛まねーから」 「ん…」  俺が肩をがぶりと噛むと、彼の筋肉の弾力が歯に伝わる。俺が噛んでいる間、彼は俺に足を背中に絡ませてしがみつく。噛む度に彼が俺を抱き寄せるから、何度も何度も痕をつけた。 「あ…ッ…ん、んん…」 「莉玖…ずっと一緒だから…安心しろ…」 「ん、んん…悠矢…」  久々に繋げた彼の身体は、とても熱くて、とても愛おしかった。繋げてる間も莉玖は沢山俺に噛み痕をつけてきて、彼がやっと自分を心から受け入れてくれた気がして、少し泣いてしまった。  最近なんだか、泣いてばっかりだ。幸せで涙が出るなんて事、映画とか創作の世界だけの事だと思っていた。  莉玖と出会ってから、初めて知る事が沢山だ。

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