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第七章 愛を叫ぶ狼達 4
間接照明の仄かな灯りだけのエグゼクティブキングルーム。三十七階からの窓の外には、遅い時間でも明るい都会の夜景を映し出す。
その広い部屋で、決心を固めた俺は如月の計画に真剣に聞き入っていた。
「まぁ、こんなところですね」
全てを話し終えた如月は、飲みかけだったビールをぐいっと飲み干した。
「脳味噌がパンクしそう」計画を聞き終えた俺の感想はそれしかない。
「それ…本当に実現出来る計画なのか?」
「だからお二人次第だと言ったでしょう。因みに悠矢様には貴方より頑張ってもらう予定です」
俺以上…それを想像してゾッとする。如月は鬼だ。だけど、俺達が〝一緒にいたい〟とただ言うよりもずっと現実的で、納得出来る。
「斗真はやっぱりすごいな…」
「何がです?」
「それも全部、山田の為に考えてたんだろ?」
「まぁ、そうですね」
「……お前がいてくれて、良かった。俺一人だったらこんなの考えつかねーし、無理だと思って頑張る気すら起きなかった」
「……私は別に良い人ではないですよ」
「ん…? 何が…?」
如月の声が小さくてよく聞こえない。
「いえ、何でもないです。話も終わりましたし、シャワー浴びてきたらどうですか」
あの男の言葉で停止しかけていた思考回路が動き始める。何だか急に視界が開けてきた。
さっきよりも気分が良くなった俺は、シャワーを浴びに浴室へ行く。浴槽の中に足を入れ、シャワーカーテンを閉める。
山田の家に初めて泊まった時、シャワーカーテンを初めて見て、どうやって使うのかよくわからなかった。カーテンを外側に出して使っていたら、山田に笑われた。あの日から、笑われながらも沢山あいつに教えて貰った。
刺身を食べる順番や、シーツとフラットシーツの間に身体を入れること、エッグスタンドで半熟卵を食べること。好きで愛しい気持ちも、嫉妬で苦しくなる気持ちも、全部あいつと出会ってから知った。これからだって、俺が知らないことをあいつに教えて貰いたい。
もやもやとしていた気持ちが、シャワーで洗い流されていく。
何だか今、無性に山田に会いたい。山田に激しく抱いてもらいたい。
(……何で思い出しただけで勃ってんだ俺は。童貞かよ。いや、童貞だけど…)
勃ったままベッドに戻る訳には行かない。俺の手が、勝手に自分の陰茎へと伸びる。彼にいつも抱かれていることを思い出せば、自ずと手の動きが速くなる。
(あいつのが挿れられて…ここも、舐められて……そしたら、すげー気持ち良くて…)
グググ…と指を一本だけ孔に挿入する。ローションはないから、キツイ。だけど少しだけ泡をつけたから指は動く。ゆっくりと動かせば、指が自分の気持ち良い場所を覚えている。
「あ…あ…ッ…ンン……はぁっ…はぁっ…」
いつから俺はこんな身体になってしまったんだろう。後ろを触らなければ満足出来ない。山田のモノが挿入されている感覚にならなければ、快感が足りない。
指を後孔でぐちぐちと動かし、前を扱く。程なくして俺は射精して、綺麗に洗い流した。
(今日抱かれないだけでこうなるとか…俺もヤバイ…)
浴槽から出ると、替えの下着がない事に気づく。まさか脱いだ下着をもう一度穿く訳にもいかず、そのままバスローブを羽織る。確か、如月が買ってきていたはず。
(机に置いときますねって言ってたような…)
浴室から出ると、如月はベッドで先に寝ているようだ。良かった。ノーパンだとバレたら絶対面白がって触ってくる。
下着を穿くまでは彼を起こしてはならない。机の上に置いてある袋を音が鳴らない様に探ると、透明なフィルムに包まれた下着を見つけた。
「おっ…あるじゃん。浴室行く前に渡してくれっつーの…」
「だってすぐ脱ぐから必要ないでしょう?」
ベッドにいたはずの如月が何故か俺を背後から抱きしめている。彼の唇は俺の耳に何回もチュ…とキスをしていて、俺の身体は簡単に反応した。手に持っていた下着は、音を立てずにカーペットの上に落ちた。
「お前寝てたんじゃ…」
「目を瞑っていただけです。莉玖様はすぐやらしい染みが出来るから、下着は必要ありませんよ」
れろっと首筋を舐めながら、バスローブの上から股間を触られる。こうなったらもう如月のペースだ。
肌を愛撫されて、身体を捩らすだけの俺は簡単にベッドへと連れていかれる。仰向けで倒されて、俺よりも体格の良い彼の身体がのしかかる。鍛えられた胸筋が俺の身体に密着して、奥が疼く。
「斗真…やだって…あ…♡ク、ソ…。ンンッ…♡ちょ…山田以外とやらねぇって…」
ぐにゅ、と外耳道に舌尖が侵入してぐちゅぐちゅとした水音が鼓膜に直接響く。
「うぁっ♡あ…やめ…♡みみの、あな…♡」
「すみません、やっぱり我慢出来ませんでした」
嘘つけ! 部屋を別々にしないあたり、絶対我慢する気なかっただろうが! そう言いたいのに、耳輪が彼の口の中に含まれて、くちゅくちゅと優しく刺激されると身体が反応する。
「あっ♡と、とうま…我慢してくれ…たのむ…やりたく、なッ…はぁっ♡」
バスローブをはだけさせられ、如月の温かくて柔らかな舌が、胸の尖まで降りてきてやらしく舐める。
「あ〜…♡ちく、び…だめ…♡♡」
ちゅばッ♡ちゅ…ちゅ…♡れろ…れろれろ…♡
「相変わらず感じやすいですね」
「そ、んなこと…ない…♡あ〜…♡」
まただ。また山田以外の男にケツを振ろうとしてる。これじゃ本当に男娼じゃないか。ヤレたら誰でもいいのか。自分が情けなくて泣ける。だけど身体は簡単に反応して、股間が痛いほどに勃ってしまっている。
「う、う…やだって…あ、あ〜…とうま…♡やりたく、ないぃ…♡」
言葉とは裏腹に後孔がひくひくとする。
山田以外のモノを挿れちゃダメだ。いや、今すぐ挿れて欲しい。脳の中で相反する言葉がせめぎあっている。だけど如月の舌が胸の尖りを舐める度に、挿れて欲しいという言葉が、頭の中でどんどん大きくなっていく。
(何で…何で俺はこうなるんだよ…)
「も、やだおれ…なんで…感じたくない…」
「莉玖様は悪くないですよ。悪いのは、そんな身体にした悠矢様と私ですから。悠矢様に怒る権利なんかないし、バレたら私が無理矢理したと言っておきます」
如月の舌が生き物みたいに俺の肌を這う。嫌なのに、とても気持ち良い。
「んぅ…んん…っはぁ…♡♡」
「莉玖様も、セックスしたかったんでしょう? オナニーしてる声、ここまで聞こえてましたよ」
「ちがぁ…ゆうやと、したくて…♡」
「カマかけてみたんですけど…そうですか。ああ、やらしいなぁ…」
嬉しそうにチュ…と何度も胸や首にリップ音を立ててくる如月。愛されている様な気になって、そのキスに嬉しくなってしまう自分が嫌だ。
「悠矢様の代わりに抱いてあげますね」
ハンドクリームみたいな容器がベッドの上に荒っぽく放り投げられる。如月が好きなシリコンオイルのローションだ。ぬるぬるとした彼の指先が俺の孔を弄る。
「う…うう♡はぁ♡ゆびいれるの、だめ…♡はぁぁん♡あ…あ…それ、すき…♡」
「解してくれてるから、すんなり指が挿入っちゃいましたよ。ほら…」
くちゅくちゅと掻き回しながら、如月の舌が俺の口内に入ってくる。久しぶりに彼としたキスは相変わらず気持ち良くて、俺の舌は勝手に彼の舌を追いかける。
「んぅぅ…はぁっ…とうま…」
「舌絡めるの上手になりましたね。気持ち良くて中々離せません」
「あ…ン、ン…」
山田以外に抱かれたくないくせに、如月には簡単に反応してしまう。それは、この男が俺を気持ち良くするって身体が知っているから。俺だって、山田が他の奴と寝たら死ぬほど嫌なのに、身体がいう事をきかない。
「良い子ですね。お尻もっと突き出して下さい」
「あ〜〜……♡♡いれちゃ、だめなのにぃ…♡」
すぐにバックからズブズブと彼の大きなものが挿入され、ゆっくりと直腸壁を擦り立てる。
このローションを使う時、彼はゴムを使ってくれない。ここまでしておいて今更だが、生でやると余計に山田に申し訳なくなる。ダメだ、ちゃんと抵抗しなきゃ、そう思えば思うほど、俺は嬌声を上げてしまう。
「はひぃっ♡はーっ♡はーっ♡とうまぁ…♡ゆうやが…おこるから…あっ♡あっ♡あっ♡ぐりぐりすんなぁぁ♡ぎもぢいぃ…♡ん゛ん゛っ…♡とうま、やだおれ…きもちよくなりたく、ないぃぃッ♡♡」
「誠実なだけじゃ、人生は楽しめません。時には狡くならないと。どうして私があんな計画を教えたと思います?」
背後から肩を引き寄せられ、突かれながら背中や首を愛撫される気持ち良さ。その内手で陰茎を扱かれて、俺の目には涙が浮かび、口からは涎が垂れ落ちる。
「あ〜♡♡ちんぽいっしょは…らめ…♡♡ッッ♡♡ひぎっ♡こわれるッ♡そんなずぼずぼしたらッ♡」
「悠矢様と莉玖様は私の生き甲斐です。それに貴方が悠矢様のパートナーになれば、私もこうしてずっと側にいれます。その為にはお二人に頑張って貰わないと…」
如月の歯が、がぶりと俺の頸を噛む。その痛さに孔が引き締まり、彼の大きな陰茎をより感じる。
「貴方達は狼のつがいだと例えましたが、交尾も動物的ですよね。悠矢様の噛み痕が沢山。雄のライオンも、射精をする時に噛んで雌の排卵を誘発するんですよ。こうしてね」
「イッ…とうまッ♡かむ、なぁぁ…♡も、やらぁはなせぇ…」
「あとは、交尾中に逃げない様にこうやって噛むんです」
「ひぎ…ッ! いたいッ…!」
また頸に痛みが走る。その瞬間腹に熱いものが広がり、如月が達した事がわかる。その液体が出ている間ずっと頸を噛まれ、痛みと快感でぐちゃぐちゃになる。
「はは…沢山でちゃいました。雌の動物ならこれで受精するんですけどねぇ…」
陰茎が引き抜かれた孔から、如月の精液がとろりと伝い落ちる感覚。
「はぁっ♡はぁっ♡なか、だしちゃらめらって…おれ、ゆうやのちんぽがいい…」
上体をシーツに突っ伏して倒れ込むと、如月は俺を仰向けにして足を開かせた。さっき果てたばかりの彼の陰茎はもう既に反り勃っている。
「お二人の事は絶対逃しません。私はもう、愛する人を二度と失いたくないですから」
真剣な顔をした如月に、正常位で奥まで突き立てられた。
「〜〜〜〜ッッ♡♡」
ごりゅごりゅと前立腺を刺激され、最奥へと捻じ込まれる。身体中に電流が走り、如月の声は、もう俺には届いていない。
どぷどぷと自分の陰茎から流れ出る精液と、止まることなく後ろの孔で高速にピストンする陰茎の感覚。俺が今わかるのは、それだけだ。
「ふふ…今度は莉玖様の白いのが出ちゃいましたね。今日はあんまり汚さない様にしないと、未成年としたのがバレちゃうな」
「ッッ♡♡とうまっ♡おかしく、なるっ♡あぁあぁぁあ♡♡おくッ♡はひぃぃっ♡♡」
「はい、手を握ってますからもっとおかしくなって下さい。ああ、可愛いなぁ。そんな可愛いと、もっと虐めたくなりますね」
ぬるぬるとしたローションの滑りと、内壁を擦る気持ちよさ。緩急の具合が絶妙で、目の前の如月の腕に手を置いてしがみつく。
「気持ち良いですか?」
「あーっ♡♡またイッちゃう…イッちゃうって…やだ、やだぁぁあ♡ゆうや、ゆうやじゃないとイキたくな…ぁぁあぁあ♡イッ…♡」
「……これを知ったら、悠矢様はまた怒るんでしょうね…ふふっ。やっぱり動画送ってあげよう」
「んんッ♡♡ゆうや…♡」
「気持ち良い顔、悠矢様にも見て貰いましょうね」
「はーっ♡はーっ♡ゆうや、どこ…♡♡」
「このカメラの向こうにいますよ。こっち向いて…」
如月のゴツゴツした指が俺の口内を掻き回す。意識も絶え絶えの俺は、まるで猫が獲物を追いかける様に、その指を必死に舌で追いかけ回した。
ピコンとした電子音。一時前に送ってくる奴は一人しかいない。めんどくせぇなと思いつつ、寝転んだまま、ゴソゴソとサイドテーブルのスマホを手に取る。
画面を見るといつもの鼻息が荒いシリーズのスタンプ。やっぱり如月だ。
〝莉玖様、げんきになりましたよぉ〜♡♡〟
その文字に「よかった…」と安堵する。続けて添付されている動画のサムネイルはボヤけた肌色しか映っていなくて、これだけだと何だかよくわからない。
俺の指が、左向きの三角マークを押した。
「あーっ♡♡もうむりらからぁぁぁッッ♡♡ゆうやがおこるからぬいて…はぐぅぅッ♡♡」
俺の目の前が急に真っ暗になる。
あまりにも驚いて、スマホを目の上に落としてしまったようだ。画面は見えないが、俺の目の上からは聞き覚えのある喘ぎ声が流れてくる。
(……え?)
「ああっ♡」「やらぁっ♡」「イッたからぁぁ♡」次々に流れてくる音と、パンパンとした乾いた音。
目の上にあるスマホをもう一度手に持って、仰向けで画面をじっと見つめる。
この可愛い顔。流れる涙と涎。筋肉のついた美しい背筋と、妖艶な腰。ずっと頬擦りしたくなる様なすべすべとした尻。どう見ても俺の可愛い恋人。その尻を掴む自分以外の手には怒りさえ覚える。
ぐちゅぐちゅと音を立てる結合部分には、ローションで濡れた莉玖の孔に、ずっぽりと大きな陰茎が満ちている。莉玖のちんぽは見たいが、このデカイちんぽは見たくもない。お前の陰毛を映すな。莉玖の陰毛を映せ。そう思っていると、画面に如月の顔が映し出された。
「記憶を失くした莉玖様とやってたやらしい事、私結構根に持ってますからね。これでチャラです。莉玖様、ほら悠矢様が見てますよ」
「ゆうや…ん、んぅ…はぁっ…とうま…息できな…んんんぅっ…はぁっ、はぁっ…ゆうやみてるから、らめ…」
泣いてる莉玖との濃厚なキスを如月が自撮りしている場面で動画は終わった。
俺はあまりの衝撃で、思考処理の速度が低速になる。頭の中で、くるくると円が回ったままだ。仰向けで固まっていると、スマホの待受画面が莉玖の可愛い顔に戻り、俺の意識も戻ってくる。
(……何だ今の動画。別荘の時じゃなくて……今日? でも莉玖は病院で…今の映像はホテルで…)
さっきの動画の情報を、パズルのピースみたいに掻き集め、頭の中で組み立てる。なんせ処理速度が低速なので時間がかかる。そして結論に達すると、勢いよく上体を起こした。
「き…如月の奴!! 殺す!!」
画面が割れそうな勢いでタップすると、数秒で如月の声がした。その後ろからは「あ〜♡とうま…♡」と俺の愛しい恋人の声がする。
「如月っ! 今どこだ!? お前、病院つったろーが!」
「大分体調が回復したので、ホテルに泊まってます。一応悠矢様にもお伝えしておこうかなと」
「何で莉玖とセックスしてんだ!? お前、嫌がる莉玖に無理矢理…殴る! ぜってぇ殴る! 今すぐ帰って来い!」
「嫌ですよ、今良いところなんですから。莉玖様、悠矢様から電話です」
少ししてから莉玖の「ゆうやぁ…」と悲壮な声がした。
「莉玖ッ! 如月か? 如月に無理矢理やられたんだな? いや如月に決まってる! 早く帰って来い! 俺が抱いてやる!」
「おれも、ゆうやにだいてほし…あぁぁあ♡とうまぁ…それきもちいいからやだぁ…♡あっ♡あっ♡あっ♡はげし…♡」
「はい、ここまでです。悠矢様、そういう訳なんで今すぐは帰れません」
だからどういう訳で俺の恋人とセックスしてるんだ? 俺は怒りを通り越して、最早羨ましい。こっちは寂しく、オナニーで済ましたというのに。俺だって莉玖とラブラブセックスをしたい。
「明日の昼に戻ります。ちゃんと学校いってくださいね。では失礼致します」
勝手に通話を切られて、スマホを思いっきりベッドに叩きつける。だけどベッドカバー越しのスプリングにホワンと跳ねるだけで、俺の怒りはうまく音にならなかった。
こうして俺が悶々としている間にも、莉玖は如月の陰茎を挿入されてまた淫らに腰を動かしている。俺以外のモノは欲しくないと言った癖に、また如月のモノを受け入れている。
(いや、莉玖は悪くないんだ。どうせ如月が迫ったんだ。学習しろ俺…莉玖があんな風になったのは俺が開発なんかしようと思ったから…)
「あーっ! でも苛つく!」
頭を掻き毟って、枕に八つ当たりをして投げ飛ばす。だけどそんな事をしても苛立ちは収まる事はなく、はぁはぁと自分の興奮した息が響くだけだった。
しかしどこのホテルにいるんだろうか。何だか見覚えのあるベッドだった。
苛つく気持ちを抑えて、もう一度動画を見る。このシーツ、サイドのランプ、ベッドの形…。
(これ、うちのホテルか? なんでわざわざこんなとこ…。いや、待てよ。如月が俺に内緒で連れ出すって事は……)
──きっと親父だ。
そう思った瞬間、身体中の血液が一気に沸騰した。俺の手はスマホを掴み、画面をすぐにタップした。
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