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第七章 愛を叫ぶ狼達 5
朝七時過ぎ。コンコンとノックをすると、少し開いた扉から、男の寝ぼけた顔が覗く。その瞬間、俺は中の部屋に押し入って思いっきり一発殴った。
「如月てめぇっ!! マジふざけんな!!」
倒れ込んだ如月の上に跨ってもう一発拳を入れる。もう今迄の鬱憤を全部ぶつけてやる。何度も拳を入れると、如月の鼻から血が出て、殴るたびに飛び散った。
「悠矢様っ! やめてください!」
松下の声がして、俺は後ろから羽交い締めされた。
「離せ松下ッ!! もっと殴らねぇとおさまんねぇんだよ!!」
「ダメです! これ以上は如月さんの鼻が折れます!」
「折ってやんねーとまた莉玖とやるだろうがこいつは!」
松下の力は意外にも強くて、俺を離してくれない。松下を振りほどこうと俺が必死になっている中、如月は「うーん、油断した」と鼻を抑えて上体を起こした。全然反省していない。よし、もう一発殴ろう。
「ふふ。悠矢様に殴られるの初めてだ…」
何がそんなに嬉しいんだ? 苛つきを通り越して少し怖くなってくる。そんな俺の目線に気づき、如月は俺の目の前に近づいてきた。
「そろそろ慣れてくださいよ、私と莉玖様がセックスするの。そもそも貴方が開発を許可したからでしょう?」
それはわかっている。でも最初は俺だって反対していた。だけど結局如月の口車に乗せられて…やっぱり自分の所為じゃないかと思い、次の言葉が出てこない。
「先を考えて判断しないからこうなる。身を持ってわかりましたか? 因みに私は最初からこうするつもりで提案しましたよ。莉玖様が私を拒否出来ない身体になるように」
「〜〜ッ…お前…」
「いいですか。将来このグループを統べる人間なら、数手先まで読んでください。提案された事に対しての結果を。その結果が良くない方に向かった場合の対処を。いつまでも子ども気分のままでいないで下さい」
こいつのやってることはおかしいのに、言ってる事が正論すぎてまた何も言い返せない。それを覆す自分の主張が出来ない。
「……何でセックスなんか勝手にやったんだ」
そう、俺が怒っているのはそのこと。こいつが莉玖に迫った経緯を知りたい。
「ご褒美、とでもいいましょうかね」
「何の…」
「計画を提案したことに対するご褒美です。まぁ、勝手に貰っちゃいましたけど」
意味がわからない。こいつは俺の質問に対して真面目に答えているのだろうか。
如月が手で合図すると、俺の身体から松下が離れた。
「とりあえず私はシャワーを浴びるので。松下、貴方はラウンジで待機。廊下は目立ちますから。もし彼等だけでホテルを出そうになったら確保。死ぬ気で止めて下さい」
「わかりました」
「逃したらどうなるか、わかってますよね?」
如月の手が、松下のネクタイをグイッと引っ張る。キスしそうな至近距離で、松下の顔が真っ青になる。
「ぜ、絶対逃しませんッ!」
恐怖に怯えた顔の松下が出て行くと、俺は真っ先にベッドへと向かった。莉玖は上体を起こして、俺を静かに見つめていた。ボサボサの寝癖頭で、はだけたバスローブ。俺と如月のキスマークが、彼の肌を取り合って所狭しと入り乱れている。
「シャワーを済ませたら説明しますから、それまではお二人でごゆっくり」
パタンと浴室の扉が閉まり、如月が出したシャワーの音だけが小さく聞こえる。
ゆっくりと莉玖のいる方へ歩き出し、ベッドに上がる。莉玖は俺を見つめるだけ。俺の顔が少し傾いて、彼の唇に触れると、そのまま押し倒した。
「……何で如月のちんぽ挿れてんだよ、アホ」
「悪り…ン…ンン…」
謝罪の言葉を聴き終わる前に唇を塞いだ。だって悪いのは如月だから。でも他の男に悦んでいたお前にも少しムカつくから、それは言ってやらない。何度か舌を絡めて、彼の肩に顔を埋めた。
「……親父に、何言われた?」
如月との通話の後、親父が莉玖に接触したと予想した俺はすぐに親父に電話をした。が、何コールしても彼は出なかった。イライラが収まらない俺はそのまま起きて、松下が六時に屋敷に来るのを待ち構えていた。
「きょうも〜つらい〜だけど〜いちにち〜が、ん、ば、ろう〜」
謎の歌を口ずさむご機嫌な松下が、いつも通り玄関の扉を開く。その瞬間、待っていた俺は彼の肩を掴んだ。
「松下! 待ってたぞ!」
「うおぉっ!? ゆ、悠矢様…おはようございます。もうお目覚めですか?」
「悪いけど、今すぐうちの日本支社行ってくれ!」
「ええ…まだ六時ですよ。行っても誰もいませんし、その前に閉まってますよぉ…どうしたんです?」
始業時間は九時。親父は出社するかどうかもわからない。とりあえず俺が行っても会ってくれる可能性は低い。こっちは後回しにするか。となると……。
「だったら、如月がどこのボンズホテルに泊まってるか知ってるか? あいつ莉玖を勝手に連れ出しやがった」
「あ〜…いや…俺は」同時に松下の視線が宙を泳ぐ。絶対知ってる。
「ま〜つ〜し〜た〜? 知ってるよな? 知ってんだろ? 今すぐ連れてけ」
「いや…でも如月さんは悠矢様に教えるなって…あ…やば…」
松下の手が咄嗟に口を押さえる。が、もう遅い。俺は無理矢理聞き出し、すぐにここへと向かわせた。フロントに着くと、如月はどこの部屋だと騒ぎ、直接部屋へコールして貰い、今に至る。
「お前がアメリカ行くまで決めろって。お前のペットになるか、消えるか」
思ってた通りの言葉に、溜息しか出ない。しかし俺は、重大なことに今気づいた。
俺は、莉玖にアメリカに行くことを伝えていなかった。
「何で、アメリカ行くの言ってくれなかったんだ?」
まずい。冷や汗が出る。完全に言うのを忘れていた。伝えようとはしていた。だが、莉玖が記憶喪失になったから言うタイミングを逃したのだ。
「俺とずっと一緒にいるって、嘘だったのか?」
「ち、違う! ついてきて欲しいって思ってた! でもお前の記憶がなかったから、戻ったらちゃんと言おうと思って…」
「で、言うのを忘れてたのかよ?」
「悪りぃ…」
完全に形勢が逆転してしまった。莉玖の顔は疑心に満ちているように見える。
(もしかして、それもあって如月とヤったのか? だったら余計自分の所為じゃねーか…あーもう…)
頭の中で大反省会が始まる。グラグラ揺れてるところに如月の巨チンで誘惑されたのなら、ヤってしまうのは致し方ない。でも、俺はやっぱり他の男とヤって欲しくない。
ここはビシッと、俺の気持ちを伝えなければ。じゃないと、莉玖はまた如月とヤってしまう。ここで俺の漢 を見せるのだ。
「莉玖、俺はお前と離れたくない。親父に認められないなら、俺は今日家を出る」
「家出て、どうすんだ? 俺の家に来るのは無理だぞ」
思わぬ返しに、俺の目が点になる。
「無理って…何で?」
「何でって。あの家で俺の立場がないのはわかってんだろーが。どうやってお前の事を納得させんだよ」
あ、そう…そうか。まいったな。家を出たらとりあえず西園寺の家に行けると思ってた。だとしたら暫くホテル? いやいや、その金は結局山田家の金で、それじゃ意味がない。
「で? お前は家を出てどうすんだ? ホームレス?」
何だか莉玖の口調がキツイ。俺の頭も痛い。まさかそんな質問が来ると思ってなかった。
さっきの流れなら「俺も山田と一緒にいたい」となって、抱き合うんじゃないのか?
思ってたよりも莉玖は現実的で、俺は言葉に詰まる。
「あ〜…ホームレス…いや、如月に…」
「結局斗真かよ。斗真は山田家に仕えてんだから、家を出たらお前にはついて来ないんじゃねーの」
「……そうなの?」
「いや、そうだろ。はぁ…さっきの斗真の言葉そのままじゃねーか。〝先を考えて判断しないからそうなる〟。ノープランで言ってんじゃねぇよ」
「ぐっ…」
莉玖の言葉が槍みたいに突き刺さる。俺は今すぐ倒れそうだ。言う事がなくなって、莉玖の肩に頭をぐりぐりとする。もうこうなれば甘えて誤魔化すしかない。
「おい、誤魔化すな。ちゃんと俺に提示しろ。お前が俺の横に一生いるプランを。お前が家を出て、一人でやっていけるプランを」
「〜〜ッ……今すぐは、無理」
「ふーん。じゃあ家、出れねーじゃん」
「何か…お前厳しくねぇか?」
「お前の親父に散々ペットやら男娼やら言われて傷付いてんだよ。だから八つ当たりだ。でも、男娼は合ってるかもな。現にお前以外とやってんだし。お前も男娼と恋人なんて嫌だろ? ……んぅ…んん」
莉玖の口からでも、彼自身を蔑む言葉は聞きたくない。俺は無理矢理彼の口を塞いだ。
「……はぁっ…お前は男娼なんかじゃない。そんな言葉は二度と口にすんな。それに、俺はお前が恋人じゃないと嫌だ」
莉玖が他の男とセックスするのは嫌だ。でもそれは莉玖と別れる理由にはならない。別れる時は、俺が先に死ぬ時だ。もし莉玖が先に死んだら、俺はすぐに追いかけるから、それは別れじゃない。
莉玖の顔は一瞬驚いた顔をして、その後ふはっと笑った。
「俺じゃないと、嫌か…そっか…」
噛み締める様に呟く莉玖に少し不安になる。
「なぁ…莉玖はどうしたいんだ? 俺と、一緒にいてくれないのか?」
ちょっと声が震えてしまった。もし親父にもっと酷い事を言われていたら、流石に嫌になったかもしれない。
「……アホか。一生捨てるなって、離すなつっただろ」
莉玖の顔が近づいて、俺にキスをする。彼からしてくれる事はあまりないから、凄く嬉しい。その言葉と行動に安堵して、俺からもキスをした。
「……なぁ、悠矢」
セックス中じゃないのに名字じゃない。素の彼に名前で呼ばれただけで、俺の胸がときめいてしまう。莉玖のことになると、こんなことぐらいで嬉しくなる。そんな気持ちにさせてくれる彼を、俺から離すわけがない。
「ん…何?」
吐息が唇に触れる程の至近距離。自分の声が、自然と甘ったるくなる。こんな声を出させるのも、俺にとっては莉玖だけ。
「俺、今すげー悠矢とヤリたい…いいか?」
「……え」
「斗真の後なのが申し訳ないけど。悪りぃ、キスしたらムラムラして我慢出来ねぇ……」
「あ? え? ちょ、ちょっと莉玖…」
上にいた俺の身体が、ごろっと下に変えられる。気づけば莉玖は俺の乳首を舐めて、器用に腰のベルトを外している。
(お、俺が襲われてるみたい…え? 何、ちょっと…お…ッ♡きもちい…おぉっ!? フェラ…おおっ♡舌遣いエロ…あ〜…♡待って待って♡ヤバイ…)
「悠矢、もう我慢汁出てるけどそんなに気持ち良い?」
「お前上目遣いやめろ…可愛すぎるから…これ以上刺激すんな…あ…♡ちょ待って…サイコー…♡」
ぐぽっ♡ぐぽっ♡ぐぽっ♡ぐぽっ♡
莉玖はバキュームしたり、舌を絡ませたり、手は陰嚢を優しく揉んで舐めて…勿論いつも気持ち良いが、今日は素のままで積極的でいつもとはまた違う。ツンツンのままでこんな事をしてくれるなんて…。
「悠矢、まだイクなよ」
莉玖が漢らしい。思わず「キャア♡」と声が出そうになって、完全に俺が抱かれてるみたいになっている。いや、待て待て! 俺が抱くんだよ! ここは漢らしく我慢して…
「いや、無理ッ! 気持ち良すぎ…あ〜…」
びゅるびゅると精液が飛び出る。莉玖は咥えるのが一瞬遅れたみたいで、顔に白濁の液をつけながら綺麗に舐めとってくれた。
「悠矢、まだって言っただろ。早く勃たせろ。まだ俺に挿れてねぇんだから」
顔に飛び散った精液を指で掬い取って、莉玖はその指をぺろりと舐めた。そして、バスローブをはだけさせたまま自分の陰茎を扱き始めた。
「俺も勃っちゃった…悠矢、舐めろよ」
命令形でフェラのおねだりをされるのは久しぶりで、思わず「はい…♡」と答えてしまった。
仰向けで寝転ぶ俺に跨り、莉玖の反り勃った陰茎が口に運ばれる。俺は莉玖の顔を見ながら、舌をやらしく動かしてやった。
「ン…♡ンン…♡」
「やらしく出来てる? 莉玖、なぁ…」
レロ〜っと舌を這わせて、彼の身体が揺れる姿を観察すると、俺の陰茎はすぐに硬度を取り戻した。
「莉玖ぅ…お前の感じてる顔見たら勃ったから、はやく…」
「じゃあおねだりしろよ…俺にどうして欲しいか言え…」
はぁはぁと息を荒くしながら、挑発的なその態度。ああ、俺はお前を離したくない。怯えた顔も、蕩けた顔も、泣いた顔も。お前のどんな表情だって見逃したくない。
「俺のちんぽ…莉玖の中に挿入らせて…」
「ん…わかった…気持ち良く、させてやる…あ〜…あ〜…ッ♡♡はいった、ぞ…♡お前のすきな、まんこの、な、か…♡」
いつのまにか塗りつけられたローション塗れの孔の中に、俺の陰茎が侵入する。熱くてうねる莉玖の内壁。最高に気持ち良い。
「悠矢、俺の身体こんなのにしたの、お前だからな…責任、とれよ…あ…♡♡いっ、しょう…♡あぁぁ♡」
「莉玖…気持ち良い…あーっ! もう無理ッ! 我慢できねぇ!!」
ガバッと上体を起こして、対面座位にする。莉玖の腕がすぐに首の後ろに周り、舌が絡む。俺の手は彼の尻を掴み、もっと奥に入るように双丘を割り開いた。
「あ〜〜ッッ♡♡おくっ♡あぁぁ♡」
「莉玖…莉玖好き…やっべぇ俺またイキそう…何なのお前…昨日如月と何があったんだよ…ッ♡あ〜…締まる…♡」
「おれ、きめた、から……」
俺の腰の動きに合わせて上下する莉玖は、息を弾ませながら言葉を続ける。
「おれの、いっしょう…ゆうやに、ささげるって…」
(なんちゅう殺し文句…ああ、本当にお前って奴は…)
嬉しさで身体中に鳥肌が立った瞬間、彼を押し倒して、自分の腰を押し付けた。風船みたいに膨らんだ愛しさが、一瞬で弾けた。弾けた愛しさは莉玖の周りに吸い寄せられていく。
彼の内壁と俺の陰茎が擦れる度に、また愛しさが増える。沢山愛を伝えたくて、何回も彼の中を往復する。好き、大好き、愛してる。そんな陳腐な言葉じゃ足りない。俺もお前に、一生を捧げたい。
体勢を変えてバックから突くと、頸に歯形の内出血がいくつか付いている。まるで如月のマーキングみたいで腹が立つ。その上から噛みつきたかったが、莉玖が痛がるのは嫌なので、その部分をべろりと舐めた。
「ゆうや、かんで…おれ、ゆうやになら、かまれたい…」
「如月のつけた痕にムカついてるから、多分すげー痛ぇぞ…だからやらない…」
「いたいのが、いい…ゆうや…」
「知らねぇからな…」
上体を突っ伏した莉玖に覆い被さり、肌が千切れる程噛み付いた。噛んでいる刺激の所為か、孔が痛いくらい締まる。
「い…てぇ…あ〜…」
「だから言っただろーが……」
何度か噛んだ後、ぺろぺろとその痕を舐めて、キスをした。綺麗な頸に、俺と如月の痕が残る。
二人の雄に取り合いされる雄のお前。でも、お前が雄でよかった。雌なら耐えられなくて、とっくに狂っているだろう。
「あっイクッ♡♡ゆうやッ♡♡らめ、らめッッ♡♡」
「俺も今日は無理…出る…」
俺と莉玖は同時に達して、びゅるびゅるとまた精液が飛び出る。セックスとは、何て気持ちが良いんだろう。まるで彼と心まで繋がった様な気持ちになれる。
莉玖に会うまでは、こんなもの、ただの性欲処理だと思っていた。ムラムラした気持ちをおさめる為の手段。
だけど莉玖とセックスしてから、これは愛を伝える行為なのだとわかった。いや、このやり方しか伝え方がわからなかった。
(でも違った…セックス以外にも愛は伝えられる。セックスは、伝える手段のひとつ…あの小さい莉玖が教えてくれた…)
自分の産まれたままの姿で、恥ずかしい部分を曝け出す。弱さも愚かさも醜さも、全てを見せ合うセックスは気持ち良い。莉玖とじゃなきゃ、一生知る事がなかった。
身体を作り替えられたのは、むしろ俺の方。身体を重ねれば重ねるほど、俺はお前から離れられない。お前の心の奥に触れるたび、愛しさがまた増える。
「なぁ、莉玖。今日すげー積極的だったけど何? 最高だった…」
「いや、明日からセックスあんまり出来なくなるから、なんとなく…」
「……セックス、できない?」
頭の処理速度が、また遅くなる。丸がくるくると回るだけの頭の中。処理速度が遅いので答えは全く浮かんでこない。
莉玖は精液を孔から掻き出すのに夢中で「どういう意味?」と訊いても答えてくれない。
しょうがなくベッドに寝込んだまま目を瞑る。しばらく考えこんでいると、肩をポンポンと叩かれた。シャワーを浴びてさっぱりした顔の如月が目の前にいる。
「セックス堪能しました? おかげで登校に間に合いません。今日は休みでも問題ないですか?」
その質問にコクンと頷く。莉玖は気怠そうに浴室へ行ってしまい、部屋には俺と如月の二人だけ。
(セックスあんまり出来ないって言ってたよな? どういう意味? 別れる訳じゃないのに、何で…)
「最初に見た時のセックスより、悠矢様優しくなりましたね」
声に反応して彼を見ると、いつものニッコリ顔。鼻は折れてない様だ。殴りが足りなかったな。
しかし、さっきのセックスはいつから見られていたんだろうか。人のセックスを見て成長を感じるな。
「……お前、莉玖が他の奴とヤってて腹立たないの?」
「どうしてですか? 可愛い子猫が二匹戯れあってたら可愛いじゃないですか。見てて癒されます」
俺と莉玖は、如月の中で子猫…。セックスを見て戯れあいとか、やっぱりこいつのことは、未だによくわからない。
「じゃあ昨日莉玖とセックスしたのも、可愛い猫と戯れあいたかったってことか?」
「そうですよ。悠矢様に動画を送ったのも、子猫が怒るとこが見たかっただけです。いいご褒美貰えました」
如月は気持ちの良いくらいの笑顔だ。
「でも六歳の莉玖にやってたのは嫌だったんだろ?」
「嫌とか腹が立つっていうより、私が我慢してるのに、実行する悠矢様が羨ましかっただけです」
それを腹が立つっていうのでは? まあ如月は児童心理学を専攻していた所為なのか、幼い子どもに対しては常識的だ。友達の影響だとか言ってたけど、出来ればその他も常識的なまま俺をサポートして欲しい。
まぁ、こいつが常識的だったら俺が莉玖をレイプしている時点でサポート役を投げ出すだろうけど。
「……ほんっと、お前変なヤツ」
「可愛い子猫二匹をずっと見ていたい。それのどこが変なんです?」
「俺らは狼じゃなかったのかよ…」
「そう見える時もあります。まだお二人は高校生だから、私の中では子猫かな…でも大人の狼になる瞬間を見たいから、お二人は私の目の届く範囲で戯れあってくれないと困ります」
子猫から狼? 種類が違いすぎる。せめて子犬とかにしろ。子猫の喩えが完全に子ども扱いで、思わずジト目で如月を見た。
しかし如月の顔は何故か真剣で、思わず俺もドキッとする。
「何だよ真面目な顔して。そういや、莉玖とのセックスは計画のご褒美って言ってたよな。あれ何?」
「〝私とともに歩け。私たちは、ひとつなのだから〟」
「いや、質問に答えろよ。それはお前の好きなソーク族の言葉じゃん…」
如月はアメリカインディアンの言葉が好きで、小学生の頃に〝〜族の言葉〟を色々聞かされた。
「ご名答。貴方達には、そうなってもらいます」
「は?」
俺の処理速度はまだ低速で、ピンと来ない。
「貴方達が、一生離れない為の計画ですよ」
「お前…そんなのあるなら早く言えよ!」
如月の言葉に一気に処理速度が通常に戻る。
「本当は自分達で導き出して欲しいんですけどねぇ…」
はぁ…と溜息を吐く如月の肩を掴んで「早く教えろ」と催促する。
「今から言いますよ。その前に水飲ませて下さい」
ゴクゴクとペットボトルの水を飲む如月を見て、あの男の顔が過ぎる。
「お前は、俺たちの味方なんだよな?」
「そうですよ。二人が戯れあってるのを見るのは私の趣味です。私の趣味を邪魔されるのは、社長でも不快ですから、協力します」
如月が俺たちの味方なら心強い。だからといってセックスされるのはムカつくが。
「二人が同じ方向を見れるように、私がサポートします。悠矢様、死ぬ気で頑張ってくださいね」
如月の顔が、妖しく笑う。
こいつがの正体がもし悪魔でも天使でも、俺は莉玖と離れない為なら、何だってやってやる。
「莉玖様は貴方に一生を捧げるそうです。悠矢様はどうですか? 莉玖様に一生を捧げますか?」
乾いた喉に、ゴクリと唾液が滑り落ちる。
そんなの、俺の答えは決まっている。
彼の為なら、一生どころか、命だって捧げてやる──。
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