3 / 5

沢木からの手紙2

居間のソファに座り、沢木からの手紙を読んだ。左手には、いつものようにネイビーの文字盤の腕時計をつけている。この腕時計はずっと私のそばにあった。手紙の続きに目を通す。 ―――――――――― 突然、手紙が届いてびっくりしただろう。 あれが見つかってからだ。 僕がきみを夢で抱くようになったのは。 老人ホームへ行くことになった親父に、何か部屋に置きたいものはないかと聞いたんだ。 親父は何かを言いかけてやめた。気がかりになり、親父の書斎にある机の引き出しを探ったら見つけた。 一枚の便箋……僕がきみに残したあの手紙と同じマークが印されていた。親父も泊まったんだろうな、あのホテルに。 便箋には、こうあった。たったひとことだけ。 『女にしてくれてありがとう』 おふくろの字なのかはわからない。もう亡くなったおふくろは筆不精で、日記や予定を書く習慣がなかった。 それでも若い頃は、こんなことを書く女だったのかもしれない。 親父には聞けずにいる。便箋はいまでも家にある。 あの日、きみの枕元に置いた手紙。まだきみの手元にあるのだろうか。 僕との夜を悔いているなら、すぐに捨ててくれ。この手紙とともに。 そんなことがないと祈るが……もしきみが不慮の事故に遭えば、誰かが僕らのただならぬ関係を暴くかもしれない。 手紙を捨てることになり、僕に会わないことを選んでも。 このワインは飲んでほしい。 僕の半身ともいえるワインが、きみの身体を駆けめぐる。 きみを愛した僕にとってこんなに嬉しいことはない。 きみと過ごした夜は過ちではなかった。その思いは、昔もいまも変わらない。 会えるのなら……。 あの日の約束を、僕が勝手にきみと結んだ約束を果たそう。 沢木真昼 ――――――――――

ともだちにシェアしよう!