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第3話

 十月十一日(火曜日)。  朝、いつものように飯を用意していると、室生がアトリエから出てきた。 「飯は?」 「んー……」  不機嫌そうに唸って、ダイニングテーブルの端に腰を下ろす。室生は室生なりに焦燥を抱えているらしく、時々眠っていないらしき日があった。  それを察してしまった時、秋月は胸が潰れる想いがする。 「無理矢理描いてないだろうな?」 「左手でマウス持つのと筆持つのと、どっちが難しいと思う? チカ」 「焦るのはわかるが、食わないと治るもんも治らないぞ」 「馬鹿。冷酷馬鹿。なぐさめろ馬鹿」  左手で、泣きそうになりながら箸を掴んで味噌汁の椀を引き寄せる。まんじりともしない様子で朝までいたのだろうと思うと、とびきり甘やかしたくなるが、秋月は心を鬼にした。 「俺に対する暴言の数だけ、今晩のおかずの皿の量が減ると思え」 「クソ馬鹿!」  完全に八つ当たりだった。ここまで室生が荒れるのは、珍しい。聞くと、夜中に朱島から連絡があったらしい。 「チカに何言われてもヘコまないのに、朱島さんは何か、慇懃無礼で超ヘコむ」 「見捨てられたら拾ってやるから、適当にいなしとけよ」  秋月がそう言うと、猛然と左手で室生は不器用に飯を食った。

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