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第5話

 秋月の仕事は、デジタルアートと呼ばれる分野のインスタレーション作品の開発、及び展示である。元々、エンジニアを目指していた秋月は、大学在学中に起業し、仲間を集め、小規模な作品の制作をしていた。そこへ朱島が室生のツテで噂を聞きつけ、自分のギャラリーでの展示を任せたいと言われたのが、この世界へ入った最初の切っ掛けだった。  だから朱島には、あまり慇懃な顔ができない。はずなのだが、秋月は朱島と慎重に距離を取り、ビジネス上の付き合いだけをしている。  大学の研究室へ寄った後、朱島のギャラリーへ昼を挟んで電話を掛けた。朱島はやり手のキュレーターだから、ビジネスランチに誘われることもままあったが、ほぼ多忙を理由に断っている。まだ学生だから、というカードが使えなくなるまで、あと一年。それまでに、どうにか室生の描いた絵で、インスタレーション作品をつくるのが、秋月の夢だった。 「朱島さん、悪いけど、今はまだ室生を放っておいてもらえませんか」  電話に出た朱島に、秋月はぶっちゃけた。 「あいつ、今日、ものすごい不機嫌でしたよ」 『それは申し訳なかった。だが催促はしていませんよ。昨日は、彼の作品が一点、売れたので、ご報告とご提案をしただけです。が、秋月さんがそう仰るのでしたら、これからは書面で通知するようにしましょうか?』 「お願いします。ところで、ロスで展示する作品の件ですが……」  打ち合わせを済ませた後で、朱島はこう言った。 『彼に次に依頼したテーマが良くなかったのかも知れませんね。それとなく秋月さんから、謝っておいてもらえますか』 「テーマ?」  聞けば、初の個展を開く上で、作品群を頼んだらしかった。個展で売れなくとも、いい作品があれば、画廊が買い取ってくれるという条件に、室生が反応したらしい。 『性愛』 「え……?」 『性愛をテーマに、と申し上げたんです』  朱島の声を聞きながら、秋月はその後、どうやって電話を切ったのか、覚えていなかった。

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