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第6話

 夜、鍋をした秋月は、室生の苦悩を知ることとなる。 「性愛だなんて……」  朱島とのことを話し、要件をつなぐと、天真爛漫に見える室生が、そのことにはやけに拘った。酒も飲まずに若い男がひとりで悩む理由としては、かなり重いものだった。愚痴をこぼしてやり過ごそうとする室生を前に、秋月はつい、言ってしまう。 「お前、欲求不満か」 「っ……」  こういうことは、変にオブラートに包まない方がいい、と思った秋月の問いに、鍋を空にした室生は、みるみる素面のまま赤くなった。 「……悪いか」  左手でやってみたこともあるが、うまく動かないし、痛みが邪魔をして気分も盛り上がらない。しかも、転がり込んできた秋月のいる家で、何をオカズにしたらいいのか、全く想像もつかないと言う。  あまりの明け透けさに、つい言葉を失った秋月は、風呂場での一件を思い出した。 (でも、嫌がってはいないんだよな、たぶん……) 「でも、こういうことまでお前に頼むとか……。大体、幼馴染ってだけでもヤバいのに、これ以上、朱島さんとかからとやかく言われたくないし……」  ぼそぼそと呟くような声に、うっかり内容を聞き流すところだった秋月は、一瞬、室生の言葉に立ち止まった。 「待て。どうしてそこに朱島さんが出てくるんだ?」 「言わなかった? あの人、同性愛者なんだよ。俺みたいなタイプ好きだって。でもそんな目で俺のこと見てる人に、性愛をテーマに連作描けとか提案されるなんて恥ずかしい」  朱に染まった頬を片方だけ秋月に晒した室生は、箸を置いて「風呂入ってくる」と言い、秋月の前から逃げ出した。  室生の話を聞いて、秋月は突然、朱島と室生の関係を誤解していた己の迂闊さに気づいた。  朱島に室生は口説かれているのだ。  しかも、室生もまんざらではないらしい。  なぜなら、羞恥を内に秘めながらも、秋月に対しては、風呂場で身体を差し出してくる室生が、朱島にはそんなことひとつすらできずに欲求不満を抱くのだから。秋月は自分の鈍さを呪うと、己の中でひとつだけ決心をし、風呂場へと室生の姿を追いかけた。

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