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第7話(*)

 室生は衣服を脱いでいるところだった。  脱衣所は二人いると狭く、肘や肩がごつごつと色んなところへ当たる。 「……さっきの話だけど」 「ん? あ、脱がして、チカ」  下着一枚の姿でそれを秋月に強いる室生に、かつてない怒りを覚えた秋月は、そのまま彼を裸にすると、唇にキスをした。 「っ……?」 「俺も、中に入れてくれ」 「は……?」 「朱島さんと、付き合うつもりか? 俺は反対する」 「へ……?」 「俺はお前が好きだから、反対する。朋、お前、朱島さんのことは同性愛者だって言ってたけど、お前はどうなんだ? 同性を愛せるのか?」 「何言っ……」 「俺は他の誰も無理だけど、朋なら愛せる」  そこまで吐き捨てた秋月を、室生は一瞬、放心した表情で睨んだ。 「馬鹿。何言ってんだ。お、男同士だぞ。俺は、そんな……。チカが一番わかってることだろ……」  言いながら、長い睫毛が震えているのが見えて、秋月はその全てが愛しくなった。 「わからない」 「い、嫌だから。とにかく嫌だ。洗ってくれるのは感謝してるけど、チカがそういう意味で触ってないのわかってるから」 「じゃ、俺がそういう意味で触ってたら、いいのか?」 「ば、馬鹿じゃねえの? そんなこと言われて俺が怯むとでも思ってんの? 馬鹿なことばっか言ってないで、さっさと洗え、馬鹿!」  言うなり、湯船に入る間も惜しんでスポンジを投げつけてきたので、秋月はシャワーを出して、室生の白く細い身体を洗った。  背中から前へ腕が回り、下腹へと差し掛かったところで、急に室生が無口になるのも、いつものことだった。 「朋」 「ん……?」  惚けたような声で返事を返す室生に、秋月は自棄を起こした。告白して玉砕して、元に戻るつもりだったのに、そのまま芯の通り切っていない性器を丁寧に捏ね、スポンジの泡を頼りに後ろを探った。  見つけた、と思った刹那、ビクンと室生が反応した。 「ちょ……っ」 「嫌か? いつもは嫌がらないのにな。俺がここをどうしようと、大人しくしてるから……」 「チカ、ッぅ……!」  秋月に抱え込まれるようにして、室生は泡だらけの身体をくねらせた。室生の水滴を、秋月のシャツやスラックスが吸い、肌と擦れる。いつもはここまでの接触は、双方ともに気をつけていたから、なかったことだった。  秋月は、室生の細い脇の下に両腕を通し、スポンジを捨てて、下草から突き出しているものを右手で握った。左手は室生が崩折れないように支えている。滑る床にくねる身体を支えながら、双玉を揉み込むように愛撫し、くびれを指の輪で引っ掛けて遊んだ。 「は……っ、ぁ、は……ぁ、っ……!」  秋月の愛撫に、室生は身体を強張らせた。が、滑って転ぶよりはマシだと思うのか、秋月の腕から逃れようとはしなかった。 「や……、嫌だ、っ嫌……っ、い、やだ……っ!」 「本当に嫌だと思ってる?」 「っ……!」  気づくと秋月は、室生の耳朶を噛んでいた。声を吹き込むと、室生は全身に鳥肌を立て、甘い声を上げた。 「ゃ、ぁ、あ……っ」 「男同士でも、幼馴染同士でも、何でも俺はできるよ。朋の気持ちいいと思うことなら、どんなことだってできる。だって俺は……朋の井戸の守り人だから」 「っ……ぅ、チカ、ぁ、ぁ、馬鹿……っ!」  浴場での攻防を制したのは、室生の腕だった。泡にまみれて力が入らない腕で、そっと秋月を抱き直す。その重みに、秋月はハッとなった。  刹那、秋月の唇に、柔らかいものが押し付けられる。室生の唇だった。 「ん……」  ちゅ、ともどかしげな音を立て、離れると見せかけて、また戻ってくる。物欲しげに下唇を甘噛みし、離したかと思うと、今度は唇をなぞった。 「チカ、とは……、終わらない関係でいたかっただけ……、なのにっ」 「……」 「朱島さんなんて、そんな動機でお前とどうこうしようとか、そんなの……不純だろ!」 「朋……」  いつしか涙を零していた秋月は、同じように涙を目に溜めた室生に向かい、黙した。あの、肌に触れる理由を探るような愛撫に密かな緊張感を持つ情動を、はかり間違えていたのだと悟った。 「俺は、チカ、が、大事だから……っ」  無念そうに告白する室生は、泣きながらしゃくり上げた。 「お前とは、ずっと……」  その刹那、秋月は、自分が室生の夢をひとつ壊したのだと悟った。  室生の身体は既に明確な快楽を兆していた。秋月に触られて、泡まみれになりながら、雄の匂いをさせて、先端から蜜を垂らしている。姿は艶めいて、小さな乳首は桜色のまま尖っていた。じわりと室生の目から涙が流れた。それを目にした秋月の視界も、潤んでいる。 「俺には…お前だけだ」 「お……れ、だけ……?」 「朋、お前が全部、俺でできてるって言うのなら、既成事実が欲しい」 「……っ」  秋月が室生を抱きしめると、その背中に室生の腕が回った。その腕の暖かさに、ささくれた心が癒されてゆく。 「お前を全部。全部欲しい。外も中も、心も身体も、最初も最後も、ぜんぶ」 「そんな、できるかわからないこと……」 「できる。お前が欲しいって言ってくれたら、俺は全部、捧げられる」 「……」 「朋……?」  室生は少し黙った後で、ぼそりと呟いた。うなじまで真っ赤に染めて、下を向いて、秋月を見ないようにして。 「そこまで言うならやってみてよ」 「朋……」 「俺を、ちゃんとできるんだって、やってみせてくれよ」

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