それから、昼休みになると三階階段の踊り場で神と麗音は密会するようになった。 唇がふやけるほど、ひたすらキスを繰り返した。 聞けばあれが神にとってのファーストキスだったと聞いた。 神のキスは気持ち良くそして、優しかった。神とキスをしていると何も考えなれなくなり、脳が蕩けそうな感覚になる。 「もう……終わりだ……」 予鈴が鳴り、力なく神の肩を押しやると神は明らかにしょんぼりとしている。 「もう一回だけ」 そう言われ、仕方なく麗音は神の唇に応えた。 最後にチュッと音を立て唇が離れると、熱を帯びた目で自分を見つめる神。 胸がギュッと掴まれるような気持ちになった。 表情の乏しい男だと思っていたのに、自分の前では思いのほかクルクルと表情が変化していく姿、優しく大型犬のように甘える仕草も可愛く見え、そして何より一緒にいるのが心地良かった。神に溺れていきそうな自分を必死で食い止めていた。 こんなにも甘いキスを繰り返されたら、自分が自分でなくなりそうで怖かった。 そんな日々が暫く続いた。 職員室前の掲示板に、学力テストの結果が張り出されていた。 《3位　真島麗音》 いつも通りの結果に胸を撫で下ろすが、神の名前が前後なかった。 《神の名前がない》 視線を下に追うとその名前は、12位にあった。 （神が十二位⁈嘘だろ？） 神がトップ10から落ちる事など今まで見た事がない。神の名前を知ってからは五位以内を常にキープしていたはずだ。 「神の奴、成績も落ちたなー」 「テニスも調子出ない感じで、この前の練習試合で負けた事ない相手に負けてたよな」 後ろで男子生徒の声がし思わす耳を傾けた。どうやら、同じテニス部の部員のようだ。 「最近ぼうっとしてる事多いしな」 「恋でもしたか？」 「あの堅物の神が⁈」 「ああいう堅物だから、恋すると何も手がつけられなくなるんじゃねえか？」 「それはあるかもー」 男子生徒たちは笑い声を上げながら、麗音の前を通り過ぎて行った。 （恋……？神が？） その相手は誰なのか。そう考えて自分の顔が熱くなるのが分かった。自分なのかもしれない。自意識過剰でなければ、その可能性は高い。 いつも熱を帯びたような神の目が浮かぶ。好きだと言われたわけではなかったが、神の目は雄弁に麗音に対する気持ちを物語ったいた。 瞬間、自分とのキスに溺れ、成績もテニスの調子を落とし始めた事実に麗音はどうしようもなく自己嫌悪に陥った。 （俺が……そうさせたのか？） 神は偽物の優等生の自分とは違い、本当の優等生だ。文武両道で顔もいい。教師からの評判も良く家も噂通り、内科医をしているという。 自分が神の人生の足枷になっているかもしれない。 不意に、母親の結婚の時と今の神との関係が重なった。 神の人生にとって、自分といるメリットは何一つない事に麗音は気付いてしまった。