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第5話
自分といると神が汚れていくような、少しずつ少しずつ汚染せれていく、そんな感覚に陥る。実際、神は自分といるようになって、成績も落ちテニスへの影響も出ていた。
(俺には失うものはない。でも、あいつは……)
神の人生は華やかなものだ。男との不毛な関係に未来などない。自分がその神の人生に傷になるような事をしてはならないのだ。
麗音の中でそれほど神の存在は大きく、そして大事なのだと気付かされた。
「どうした?ハルト、久しぶりに来たのに元気ねぇじゃん」
その声にハッとし、我に我に返った。
「いや、別に……」
手にしていた酒を飲み干し、タバコに火を付けると大きく吸い込んだ。
週末になり、暫く控えていた夜遊びを再開させた。
あれ以来、神と二人で会っていない。近付こうとする神を突き放し、避け続けた。神は捨てられた子犬のように、あからさまに落ち込み、その姿を見る度に心が締め付けられた。
離れて気付いた。
自分は神が好きだった。
汚れを知らない無知な子供のようで、無愛想だと思っていたその表情は自分の前だけでは良く感情を露わにしていた。こんな自分を大切そうにに触れる唇と手が優しかった。こんな汚れきった自分なのに、神は優しく触れてくれた。
「外でケンカだってよ」
中に入ってきた一人がそう言うと、
「ほら、この前加藤たちと揉めてた、デカイやつ」
(神⁈)
体が勝手に動き、麗音は勢い良く外に出た。
四人の男に囲まれている神は、殴られたのか蹲っている。
「神!」
「麗音……」
神に駆け寄ると、神の唇から血が流れていた。
「何してんだよ!」
「この辺来れば会えると思って」
「何、本当にハルトの知り合いだった?ハルトに会いたいって言ってきたから、変なストーカーかと思ってよ、追っ払ってやろうかと思ってさ」
「ああ、知り合いなんだ」
「ふーん……なら、いいけど」
そう言って男たちは大人しく引き下がってくれた事に麗音は胸を撫で下ろした。
「で?なんだって?」
わざと呆れた声を出し、そう言うと一つため息をついた。
「麗音と話ししたくて」
神は腰を上げ、服に付いた誇りを払っている。
「俺は話す事ない」
神は傷付いたように麗音の言葉に目を伏せた。
「俺、麗音に言われてあれから色々考えたんだ」
一体何を考えたというのか。
「男とか住む世界が違うとかそんなの関係なくて、俺は麗音といたい」
そう言って神は照れたようなに顔を赤らめたが、その顔は満足気にも見えた。
素直に嬉しいと思った。神に抱きつきたい衝動に駆られたのをグッと堪えた。
「やめとけよ……おまえ、きっと勘違いしてんだよ。俺が初めてキスした相手だから、そんな風に思ってるだけだ。今だけでの感情で、きっと後々後悔する」
震える声を誤魔化すように、タバコを取り出すと火を付けた。
神に目を向けると、神は悲しい顔を浮かべたと思うと一筋涙が頬を伝った。
「俺の気持ちを否定しないで、麗音。俺は自分自身でちゃんと麗音を好きだって気付いて、麗音を好きな自分を受け入れたんだ」
一度下を向き、再び顔を上げた神は、
「俺には……おまえだけだ」
力強くそう言った。
「そう思ったし、その気持ちはずっと変わらなかった」
「神……」
どうしてこんなにも神は真っ直ぐなのだろうか。
「これだから世間知らずのお坊ちゃんは……」
麗音は流れる涙を隠す為、手で目元を隠した。
「麗音?」
麗音は神の手を掴むと、強引に手を引いた。
「どこ行くの?」
「俺んち」
神は自分を掴んでいる麗音の手を取ると手を繋いできた。その手から神の嬉しさが伝わってくるのを感じた。
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