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第2話
「侑心ちゃん、スペシャル企画のアレ考えた?」
そう声をかけてきたのは、長く一緒にやっているディレクターの砂山さん。
放送終わり、帰ろうとした俺に持ち掛けられたのは、最近頻繁に打合せしている企画の話。
「俺やっぱり青色2号さんがいいと思うな。こまめにメールくれるし、番組のことにも詳しいから色々語れるだろうし。なにより俺がすごく会ってみたい」
それは10周年企画のうちの一つで、いつもメールを送ってくれているリスナーの中でも有名なリスナーをスタジオに呼ぼうというもの。その人と一緒に昔のコーナーを振り返ったりできたらいいんじゃないかと考えて、その人選を考えておいてくれと言われていたんだ。
青色2号さんは本当に初期からメールを送ってきてくれている人で、その割にあまり自分のことを語らない謎の人。最初に進路の話をしていたから学生だったんだろうと思うけど、その後どんな生活を送っているかはどうにもわからない。ただいつも忙しそうで、だけど熱心にこの番組を愛してくれる人ってだけ。
そういうリスナーは何人もいるけれど、ある程度はメールの中身から推測できる。そんな中で一番有名なのによくわからず気になるのが「RN 青色2号」さんなんだ。
「でも彼出てくるかね」
それは当然砂山さんも考えていたようで、それゆえに浮かぶのは苦笑い。
「うーん、最近特に忙しそうですしねぇ。スタジオに来るのが無理でも、やりとりだけでもできたらいいんだけど」
「とりあえず連絡してみるわ」
「お願いします」
やっぱりどうせなら10年を語れる人の方が色々なコーナーを振り返ることができて楽しいだろうし、単純にどういう人か知りたい気持ちが強い。実際会ったことがなくてもこれだけメールのやりとりを続けてきたんだから、話も合うと思うんだけど。
ダメ元、といった感じの砂山さんに頭を下げ、俺は挨拶をしてスタジオを後にした。
そして一週間後。ラジオ局にやってきた俺は、スタジオに着く前に砂山さんに呼び止められた。
「侑心ちゃん! 連絡来たよ。彼、青色2号くん」
「あ、どうでした?」
聞きながら表情を窺えば、なんとも微妙な顔。悪くはなさそうだから完全拒否というわけではなさそうでも、全面的にオーケーというわけでもなさそうだ。
砂山さんはほんのひとさじの苦みを混ぜた笑みを作り、元々ちゃんとセットされていない頭を乱すように掻いた。
「いやそれがさ、出演自体は無理そうなんだけど、侑心ちゃんにはぜひ会いたいって。どうする?」
「お、じゃあ俺、一回グッズ渡しがてら会ってみますよ。そこで説得するなり、せめてインタビューくらい録ってくるなりしてみます」
スタジオに来られないのは物理的な距離の問題ではなく違う事情のようで、残念ながらすんなりと決まりはしなかった。けれど会ってくれるというのなら諦めるのは早い。
我がGNウェーブでは、毎回ではないけれど何度かのスペシャルのときにメールを読んだリスナーさん相手にグッズを送っている。けれどなぜか青色2号さんはラジオネーム以外を書いて送ってこないから、グッズは送れないまま。どうせならこの機会に渡して話のきっかけにするのもいいだろう。
「それじゃあよろしく」
細かい待ち合わせの予定は砂山さんに任せて、俺は気分よくその日の放送をこなした。
一体どんな人なんだろう、青色2号さん。
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