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第4話

「『GNウェーブ』、高校生の時から聞いてます。それで、高三の時に進路でうみさんに相談したら、『自分の未来を思い描ける方に進んだらいい』って言われて今に至りまして」  端的にどうしてこうなっているかを語った青色2号こと空木くんは、少し気まずそうに肩をすくめた。  ラジオにはよくその手の相談が来る。進路や就職の悩みは、定番と言えば定番で、そのたびその本人の状況を鑑みて答えてきた。その内容も覚えている。  俺だってそれほど長く生きているわけじゃないから偉そうなことも無責任なことも言えないけれど、それでもやっぱり悩むほどにやりたいことがあるのなら、できる限りやりたいことをやった方がいいと思ったからそう言った。  それが、知らぬ間にすごい決断をさせてしまっていたらしい。もちろん適当に言ったアドバイスではないけれど、一人の人生を変えたということを実際聞くと、言葉の力を改めて思い知らされる。  そのタイミングでコーヒーを運んできたウェイターに軽く頭を下げ、けれどそれには手を付けずに改めて俺に向き合う空木くん。 「あの時、ああ言ってくれたことに感謝してます」  そしてまた深く頭を下げられ、いやいやと両手を振ってから、それも違うかと考え直す。 「すごいのは、どうするかをちゃんと考えて決めて、その道を選んで進んだ空木くんだと思うよ」 「……好きだなぁ、うみさんのそういうとこ。それにやっぱりいい声」 空木くんはそう言って、今まで少し緊張したように強張らせていた顔を溶けるように綻ばせた。  そうすると、大人びていた顔が年相応に見えて、それに気を取られていたせいで反応が遅れる。 「えっ? あ、ありがとう」  なぜに急に褒められたのか。とりあえずお礼を言ってみると、今度は柔らかな笑みが浮かぶ。 「背中を押してくれたのはうみさんです。俺は、うみさんの言葉だから素直に聞けたんです」  穏やかなトーンでそう告げるた空木くんは、そこで言葉を探すようにコーヒーに口を付けた。砂糖もミルクもなしのブラックだというのに顔をしかめもしない辺り、舌は俺より大人らしい。  そんな空木くんを、同じようにカップに口をつけながらそれとなく観察する。  艶のある黒髪は俯くと目元が隠れそうなくらいの長さだけど、後ろをさっぱりと刈り上げているから爽やかだ。今は伏し目がちな目元は鋭そうだけど浮かべている表情のせいであまり恐くない。ラフなインナーに着崩したテーラードジャケットはシンプルでおしゃれと非の打ち所がないかっこよさ。これで演技もうまいのだからそりゃ人気も出るという話だ。  その彼が、まさかいつもメールをくれるあのリスナーさんだったとは。いや、俺としてはあのリスナーが、の方だけど。 「本当はメール読まれなくなるの嫌だから黙っていようと思ったんですけど、どうしてもうみさんに会いたくて」  そうやって、少し照れ臭そうにここに来た理由を話してくれる空木くん。  確かにこれは、有名リスナーとして簡単に出演してって話じゃないな。正体を知られることでメールがしづらくなると気にするのなら、本来なら言いたくもなかっただろう。  それでも来てくれたのは俺と話すためだなんて、嬉しいことを言ってくれる。

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