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第6話
そんな風に喫茶店を後にした俺たちは、個室のある居酒屋に場所を移し、二人だけの飲み会を開くことになった。
そこでアルコールが入ったからか、それとも個室になったからか、空木くんは今までどこに隠していたのかというくらい熱いラジオへの思いを語りに語ってくれた。
どのコーナーが好きだったかや俺が忘れているくらい昔に語った俺の話などなど。
その中で語られたのは感想だけではなく……正直言って、勘違いと思えないくらい熱っぽい俺への想いだった。
わかりやすいところでいえば、何回か来ていた恋愛相談のメールの内容は、実は全部俺相手の話だったとか。確かに年上とか会ったことないとか個人的なやりとりはしたことがないとか、でも自分の相談には真剣に乗ってくれるとか、言われればそれっぽいものではある。ただもちろんそうとは思っていないから、自分だったらどう思うかなんてアドバイスを幾度もした。まさかそれがまさしく空木くんが聞きたかったことだとは思いもせず。
先ほどから何度も会話の中に出てくる俺への「好き」は、人として、という意味だけでなく、どうやらしっかりとした愛情の意味らしい。
当然、驚きはした。でも、青色2号さんの送ってきたメールを思い出せば、なんとなくしっくりとも来てしまった。
一度も会っていない相手だけど、それでもあれだけメールのやりとりを続けていればお互いどんな性格なのかはわかってくるし、特別な存在にもなる。俺にとっても「青色2号さん」は他のリスナーたちとは少し違う特別な立場だ。だから今回の企画で誰かを呼ぼうと思ったときも真っ先にその名前が浮かんだわけで。
……なにより実際会って、こんな真正面から愛情をぶつけられれば、誰だってほだされる。
美味しくお酒が進み、そのせいで気が緩んで、「壮良くん」なんて呼び出した辺りから自分がかなり酔っているのに気付いた。
時計を見れば二人飲み会を始めてから三時間ほど経っている。
酒にすごく弱いわけではないけれど、いつもよりペースが速い分空いたグラスの数も相当だ。そろそろお茶にでも切り替えないと自分の足で帰れなくなりそう。
さすがにそんなことで迷惑をかけるわけにいかないから、なにかアルコール抜きの飲み物を、と探そうとしたら壮良くんに止められた。
「もうちょっと飲んでください」
それどころかおかわりを勧められる。
壮良くんは喋っている分俺より飲んでいる量が少ないし、若いから酒にも強いのかもしれない。
「いや俺これ以上飲んじゃったら帰れなくなっちゃうから」
「むしろそうなってほしいんで」
「……ん?」
笑いながらそれとなくお断りしようとした俺は、返された壮良くんの言葉に引っかかった。
そうなってほしい?
「酔いつぶしてお持ち帰りする計画なんでもっと飲んでください」
「……思わず酔いが醒めそうなとんでもないセリフだよ壮良くん」
「好きな人を前にして、黙って帰せるほど余裕ないんで」
真正面から目を見つめられたままでの告白にぐらりと体が傾ぐ。
なんとまあ、年下っぽさと男っぽさをいい感じにミックスした口説き文句だろう。思わずきゅんときてしまった。
どうやら、その計画をもとに飲みに誘われたらしい。それゆえの、あの緊張感のある誘い方だったのか。
「……がっつきすぎてるのはわかってますけど、チャンスは自分で作るもんだってうみさんが」
「俺のアドバイスかー」
壮良くんを見つめたままぱちくりとまばたきを繰り返す俺をどう思ったのか、頬を掻きながら少し気まずそうに視線を逸らす壮良くん。
思い返せばそんなアドバイスをしたかもしれない。
「そうだなぁ。じゃあやっぱりお茶にしよう」
「それって、ノーってことですか」
機嫌よく締めのお茶を探す俺に、子供っぽい面を覗かせる壮良くんはわかりやすい不満顔だ。だから俺は首を傾げて返してやる。
「壮良くんは酔って意識ない方が好み? だったら飲むけど」
俺の言葉に、今度は壮良くんがまばたきを繰り返す番。
しばらくの無言の後、やっと意味を飲み込んだのか、壮良くんがゆっくりと口元に笑みを飾らせた。
「うみさん」
「なにかな?」
「そういうとこ、好き」
「わかってくれたならいいよ。んじゃ、お茶二つね」
大人しく頷いた壮良くんとともにお茶が来るまでのじりじりした時間を過ごし、そして。
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