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反則技炸裂
朋樹は深々と一礼してから、その場を立ち去った。
ところが後を追ってくる形で衣ずれがして、つられて振り向いた折も折、
「本当に嫌だと思ってる?」
官能ボイスが鼓膜を震わせて、びっしりと鳥肌が立った。
あざとい真似をと、むず痒い首筋をこすりながら飛びのき、よろけたそこに追い討ちがかかる。
右のこめかみに沿って腕が伸びてきて、がっしりした躰と壁の間に囚われてしまったのだ。
この体勢はもしや、萌え度百パーセントの壁ドンでは? ムスク系の香りに鼻孔をくすぐられ、しれっとした顔を睨 めあげると、殊更ゆっくりと舌なめずりをするさまでやり返された。
フェロモンだだ洩れで、眩暈がするほどに。
横にずれると、すかさずもう片方の腕に行く手を阻まれて、遮断機に挟まれたように身動きが取れない状態に陥った。
あまつさえ制服のベストと、三つ揃いのそれが触れ合わさる近さまでパーソナルスペースを侵される。
そこで、ある情景が脳裡をよぎると目縁が赤らむ。もらい泣きに洟 をすすった年の差カップルもののBL漫画の一場面と、図らずもそっくりな状況に置かれている。
壁ドンからのキスという展開に、胸がきゅんとなったあの作品と同様に、唇が重なってもおかしくない構図だ。駄目だ、毒されるな。才賀はきっと、俺があたふたするのを楽しんでいるのだ。
「車で来ている。家まで送っていこう」
「おっ、お気づかいなく!」
ぶんぶんと首を横に振り、腕をくぐって駆けだした。これ以上、BLを地でいく場面が繰り広げられたら、自ら蜘蛛の巣に捕らわれにいきかねなかった。
連絡なしの朝帰りをなじる高瀬に、一連の出来事を話して聞かせている間中「へぇ」とか「ほぉ」とか、棘を含んだ相槌を打たれ通しだった。
その後、シャワーを浴びている最中に湯が突然水になった。台所側の給湯器の操作パネルに不具合が生じたのか、勝手にスイッチが切れていた。
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