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貴方様までお戯れを

「俺は片思いのプロだ、友情優先で気持ちを押し隠すほうを選んだ健気な男だ。ふたりで授業をサボって屋上で昼寝をしていたころから、久世にメロメロだ」    力任せに突き飛ばされて、柱に頭をぶつけた。この荒っぽいやり方は、片思いをこじらせたがゆえの可愛さ余って憎さ百倍なのだろうか。 「同居を継続するということは、布団にもぐり込まれるのも想定内ということだ。ちなみにひとりエッチのオカズは、俺にハメて俺にハメられて、アンアンさえずる久世だから」    うなずく以外に何ができる? 精神的な意味で──俺、今お前に殺されかけた──と朋樹は、あわあわと口を動かした。  親友のべた惚れ宣言、という青天の霹靂(へきれき)の事態に魂が九割がた抜けてしまい、バイト中もカップを割るわ、科白を度忘れするわ、とボロボロだ。  閉店して早々、雷が落ちた。 「給料泥棒、足手まとい、デクの坊。どの愛称で呼ばれるのが望みだ」 「さーせん、ルームメイトに告られたうえに襲うぞ、覚悟しとけみたいなこと言われて脳みそのキャパ超えて……」    掌がこちらを向いてストップがかかる。 「相談するふり、愚痴るふりで、嫉妬心を煽るのが狙いかを」  と、のたまう才賀をきょとんと見つめ返す。 「わたしは暇人ではない。連夜の個人授業はレッスンにかこつけて、きみを独占するという下心があってのことだ。頃合いを見て恋人に立候補するつもりでいたが、今、しよう」    ずいと詰め寄られて、肉食獣の餌食となる草食獣の気分を味わう。晴れの特異日方式でいくと、俺の場合はさしずめ告られ特異日だ。力なく笑うと、顎に指が添えられた。 「率直に言って、わたしのことが嫌いか」 「フツーに尊敬してる的な……」 「ならば、前向きに検討する余地はあるな」

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