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頭の中グルグル

 仰のかされるにつれて、苦み走って男前な顔がアップで迫る。  頭の中でレッドアラームが点滅し、なのに逃げるどころか、かえって凍りついた折も折、表に面した扉をノックする音が響いた。  たとえ宇宙人でも救世主、と舌打ちを背に戸口へ急ぐと、時ならぬ訪問者は高瀬だった。 「近くに用があったついでに寄ってみた。雨が小降りになるまで休ませてよ」  出先からの帰りというわりにはアパートで埃をかぶっていた傘を二本携えているのは、なぜだ。  一本は朋樹の分で、本当は偵察しがてらわざわざ迎えにきたんじゃないのか。  ものの弾みといっても恋情をさらけ出したからにはグイグイいく資格がある、と開き直って。  才賀は才賀で例のルームメイト、イコール恋敵に相まみえたとばかりに、これ見よがしに朋樹の肩を抱く。  すると高瀬は挑戦的に、白い歯をこぼした。 「地位を悪用して従業員をたぶらかす。セクハラおよびパワハラの現行犯ですね」 「なかなか興味深い見解だ」    居たたまれないどころの騒ぎではない。朋樹は指で耳に栓をした。  俺の気持ちはそっちのけで親友と雇い主が恋の鞘当てとやらを演じるモテ期なんか、モテ期なんか……、 「圧がすごくて嫌だぁ!」  ひと声吼えて店を飛び出す。クリスマスイルミネーションに華やかに彩られた街路にひきかえ、心の中はあたかも闇夜だ。霧雨が、よけい鬱陶しい。  高瀬のことは好きだ。でなければ一緒に住もうという発想じたい生まれない。  だいたいオカズ云々にしたってドンビキするのが普通の反応で、なのに、これっぽっちもおぞましいと思わなかった。じゃあ同居から同棲へとシフトしてもやぶさかじゃないか、といえば、善処します、みたいな。

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