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火花散りますバチバチと

 辣腕家でありながら理想家の面を併せ持つ才賀には純粋に憧れる。  客観的に分析すると、恋愛感情に類するものが五パーセント……もしかすると十パーセントくらい混じっているかもしれない。  ぽかり、と自分の頭を殴る。劇団の公演前には毎回、ノルマ分のチケットを売りさばくのに苦労する。先ほど言い寄られたさい、好意につけ込めば才賀はまとめて買い取ってくれるだろうと、さもしい計算をしてしまった。  そぼ濡れた顔をこする。この選択に役者生命が懸かっていると仮定して、いじらしい親友と、大人の魅力にあふれた男性(ひと)のどちらとステップアップを図りたいと望む?  「てか、拒否権行使するのもありじゃね?」  路地裏で雨宿りをしていると傘が二本、同時に差しかけられた。さらに悩みの種のふたりが、サラウンド方式で話しかけてくる。 「抜け駆け禁止の紳士協定を結んだ」 「で、クリスマスイベントに特別ゲスト枠で招いてもらうことで話がまとまった。俺もセクハラおやじも全力で高瀬をときめかせてみせるから、楽しみにしてなよ」 「俺の意思はガン無視かよ」  悪寒がするのに頬が火照る。風邪をひいたというより知恵熱の症状だ。  俺が看病する、協定違反だ、と言い争うふたりをなだめている最中にぶっ倒れて、気がつくと自分の布団に寝かされていた。  高瀬と才賀は付き添う権利を主張して双方譲らず、妥協し合ったあげく共に寝落ちしたようで、布団の両側で眠っていた。 「目が覚めたのか。気分はどうだ」  朋樹がごそごそと起きだすなり、才賀が額に額を押し当ててきた。隈ができて髭がうっすらと伸びたさまに、朋樹は胸がきゅんとなった。  三つ揃いのスーツも皺くちゃで、ダンディーな紳士がなりふり構わなくなってしまうくらい、俺のことを本気で好いてくれているっぽい。  と、高瀬が才賀をべりっと引きはがした。 「久世の病気のときの定番は、すりおろしたリンゴ」 〝自分が久世の一番の理解者〟とうそぶくふうに、才賀に勝ち誇った目を向けると、リンゴの皮をむきはじめた。ところが指を切った。

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