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君も寝癖も(1)
「吉川ー、飯食うぞ」
「大野だっ」
昼休みになると、俺は毎日隣のクラスに吉川を迎えに行く。
吉川とは去年同じクラスだった時にかなり仲良くなって。
それは学年が上がってクラスがバラバラになった今でも変わることはなく、こうして毎日昼休みは一緒に過ごしている。
俺が名前を呼ぶと、吉川はまるでご主人様を見つけた子犬のように嬉しそうに笑って走ってきてくれるのだけれど、俺にとってそれが、たまらなく幸せに思える。
そうだなぁ。
仲良しなのは変わっていないけれど、こんなふうに感じるようになってしまった、俺の気持ちには変化があるな。
いつもくるんと跳ねている耳の上あたりの寝癖が可愛くて、頭を撫でるとにこって笑う笑顔が可愛くて。
それから、「大野」って、俺の名前を呼ぶ声が可愛くて。
気がついたら、いつの間にか吉川を好きになっていて、もう心の中で“可愛い”って思うだけじゃあ満足できないくらいになってしまった。
「今日は風が強いから空き教室で食べよっか」
「うん」
走り寄って来た吉川の、くるんと跳ねている寝癖に優しく触れ、それから髪の毛をくしゃくしゃにした。
そんな俺に、いつものように吉川は可愛い笑顔を向けてくれた。
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