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君も寝癖も(3)

「で、何でいつも寝癖直してこないの?」 すりすりと、頬を撫でられるのがくすぐったいのか、吉川が身を捩った。 「お、大野には、秘密だよっ」 合わせられていた視線は教室の隅へと移動し、なんだか寂しくなる。 「何で?」 こっちを向いてよ、とそんなことを考えながら、俺は両手で吉川の頬を包み込んだ。 「ねぇ、どうして?」 「大野はダメだよ、言えないもん」 どうして俺には言えないのかって、拗ねてみせようかと思ったけど、吉川を見ていたらそんな余裕はなかった。 恥ずかしそうに笑って、照れて少し俯いて。 唇を軽く噛んで、そしてちらっと俺を見る。 「……っ、」 あぁ、もうダメだ。 吉川が、可愛すぎる。 可愛くてたまらない。 心臓が、きゅっと締め付けられた。 可愛いって、いつまでそう思って見ればいいんだろう。 俺って、ばかだよね。 こんな、触れられる距離に吉川がいたら、絶対に我慢できなくなるに決まってるのに。 こうやってさ、ふとした瞬間に。 吉川に対する可愛いと好きが、溢れ出して収集つかなくなるのは分かり切ってただろ。 ねぇ、どうしよう。 吉川、俺はどうしたらいい? 頭を撫でたり、頬に触れたり。 そういうのじゃなくてさ、もっと吉川に。 「吉川」 ごめん、ごめんね。 吉川、俺ね。 「大野?」と、不思議そうに、吉川が俺の名前を呼ぶ。 俺はその口を、自分ので塞いだ。

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