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誰かを好きになることは(5)
「ただいまー」
靴を脱ぎ、誰もいない家に矢野くんはそう言って、それから僕に靴を脱ぐよう促した。
ここまで来たらうまく言い訳して、さっさと帰るしかない。
矢野くんから逃げること諦めて靴を脱ぐと、手を掴まれたまま部屋に連れて行かれた。
「瀬口、そこに座って」
“逃げない”って言ってるのに、矢野くんは僕をソファーに座らせると、自分はドアの前に座った。
まるで今の僕らの心の距離みたい。
微妙にあいている空間に、気まずさを感じる。
まぁ、その距離ができてしまったのは、全部僕のせいなのだけれど。
“実は最近ばあちゃんが入院しててさ”
“妹の迎えに行かなきゃいけなくて”
“家の手伝いが忙しくて”
頭の中で必死に理由を考えるけど。
自分で嘘をついている自覚があるせいか、どれも嘘っぽい。
理由にはなりそうなのに、それでもきっと、矢野くんにとって、これは理由にはならない。
ああもうどうしよう。
何て言えばいいんだろう。
それに今は何を言っても、信じてもらえない気がする。
「瀬口、俺……何かした?」
「……っ」
先に沈黙を破ったのは矢野くん。
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